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これは、ロシアそのもの、および中欧と東欧諸国を軍事的対立以外の方法で西側に結び付ける手段だった。しかし、NATOはこのプログラムの実施に当たっては、16の中核加盟国以外に対しては相互防衛責任を持たぬよう注意深く行動した。

ここでの配慮は、NATOを同じ基本的価値観と任務を共有する軍事的国家集団として堅持し、同時に、政治的にはずっと緩やかなグループを組織して東にその活動を広げるというものだった。

 

NATOの拡大は、世界でも傑出したこの安全保障機構をミニ国際連合化することで、この二つの中核機能を機能不全の危険に曝そうとしている。NATOが次第に干渉主義に傾くのを見てもこの傾向はすでに明らかであり、まるで国連の『ミッション病』のように、ヨーロッパ諸国の国内問題に首を突っ込み始めている。コソボは、明瞭な冷戦の危機が存在しない場合の軍事介入に必要とされるルールを新たに作るための場を提供している。NATOの介入に触媒の役割を果たすのは、グローバルに西欧の一般家庭の居間で放映されるテレビ番組が報じる非人道的行為や災害のニュースである。NATOの最近までのこの分野での動きを見ると、この種の自動的な人道的反応の制度化が絶えず続いてきており、すでにかなりはまり込んだ状況にあると考えられる。それにしても、ワシントンでは、NATOの役割の変化や、米国がヨーロッパで担う新しい責任についてまともな論争が行われた形跡は見られない。これに加えて、NATOが冷戦後のヨーロッパでとる責任の範囲の地理的、機能的拡大は、以前のソ連の攻撃からの西ヨーロッパの防衛から、今や全ヨーロッパの安定の維持や、ヨーロッパ全域での人権擁護にまで拡大された活動は、現地の一般市民や官僚機構や政治のレベルでのアメリカの活動家的積極行動に対する抵抗と常に衝突せざるを得ないだろう23。従って、NATOによる干渉は、人道的問題や人権の無視といった事態が極端に悪化した時点に限られてくる傾向を持つ。そしてそれは、国連による非人道的事態への緊急介入の場合に常にそうであるように、困った結果しか生まないことが普通なのだ。国際的な介入行動が『余りにも少なすぎ、遅すぎる』というジレンマは、特定の機関が行動を起こしたがらないとか、起こす能力に欠けている、といった理由ではなく、主権国家を基礎とする現存の世界秩序が不可避的に持つ構造的制約が原因となって生まれるのだ。NATOの弱体化がどの程度までその活動範囲の拡大が直接、間接の原因となって起こっているのかについては、議論の余地がある。しかし、すでにNATOは、警告だけを繰り返して発してきており、それがまた際限も無く続くかに見えるのは疑う余地も無い。実行とは、単なる脅しとは無縁のものであることに留意すべきだろう。

 

 

 

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