ランド研究所のディビッド・C・ゴンパート副社長などは、NATOの拡大は、二つの世界大戦と冷戦の場であったヨーロッパを、今日の世界で最も安全な地域であり続けるのに役立つだろうと主張している。米国は20世紀に三度までもヨーロッパの防衛への意志を表示したのだから、ここで思慮ある行動をとるべきであり、それは、これらの新しい加盟希望国をNATOに受け入れることによって事前にその意志を明確に示しておくことなのだ。この同盟によって、以前には敵対関係にあったヨーロッパ列強の軍隊は脱国軍化し、かつては民主的とは言えなかった国々(スペイン、ポルトガル、トルコ、およびギリシャ)の軍隊の改革を促進した。同盟の拡大は、新規加盟国が自国の軍隊に対する文民統制を堅固なもとすることを通じて民主主義に重みを加えるだろう。これらの国々をNATOの軍事機関に加えることはまた、西側のNATO諸国の極めて円滑な軍部と民間部門との相互関係が一つのモデルとなった新規加盟国に影響を与えるだろう。同盟の拡大はまた、イギリス、フランス、およびドイツの軍隊の近代化を現実のものとし、米国無しのNATOにはヨーロッパの境界線を越えた地帯で現時点では無い共同軍事力の前方展開能力を強化することでヨーロッパの安全保障の構造をさらに高度化するための触媒として作用するだろう7。
汎ヨーロッパ共同安全保障システムの構築という目標は、ロシアの外国恐怖病的傾向の虜となるには余りに重要である。同盟拡大賛成論者達は、ロシアからの警告は、ロシア側が対外交渉の場で出来るだけ有利な条件を勝ち取らんがための取引の手にしか過ぎないので割り引いて受け取ってよいと言う。或いはそれは、ロシアのエリート指導者達が抱く不安の表現であり、この国の一般大衆はそんな事には何ら頓着してはいないのだと主張する。いや、それよりも、中国との紛争のまつわる長大な国境線を考えても、ロシアには西側と取引する以外には選択肢が無いのだと言うのだ。これ以上にロシアを疎外することは、東ヨーロッパにはNATO同盟軍や核兵器を展開しないことで避けることが出来るし、これはロシアの軍事的脆弱さからして西側にとって同盟の力を削いだり、不用意な弱点を作ったりはしない。NATOの拡大は、EUの規模の拡大と同時に実行されれば、逆説的だが米国の唯我独尊に対する経済的・政治的な対抗重力ともなりうるのだ。自国だけは例外だとする独特の対外感覚は、米国をして1997年のオタワ対人地雷禁止条約に不参加の態度を取らせたし、1998年の国際犯罪裁判所の設置にも反対させている。ヨーロッパ諸国は、このいずれの場合にも『志を同じくする』民主主義諸国家による支持を取り付けて国際合意を成立させるのに成功している。