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NATOは共通のヨーロッパ大陸文明と政治的価値観の共有によって下支えされている。優れた機構を持つこの組織の強みは相当なもので、入念に構築された制度的メカニズムに支えられて、NATOは新しタイプの紛争を管理する国際間の努力を促進し、この目的のために既存の同盟関係を再構築することを促した2。アジアにはこれに比較しうるほど強固な多国間組織が存在してはおらず、たとえば一国の安全保障上の利益が国家の枠組みを超えた地域安全保障政策にまで高められた共通の安全保障組織は存在しないし、この地域特有の歴史的な敵対関係が存続し続けている。米国が持つ実績、果たす役割、そしてその政策方向は世界中の西側同盟のネットワークの中核をなしています。

ソ連邦の崩壊と共にロシアの脅威は考えられる将来にわたって休眠状態に入り、米国を日本、韓国および台湾と結ぶ唯一の共通の糸は今や国力を回復し強固な自己主張を恐れぬ中国の脅威である。

 

1999年の4月にはNATOは発足以来十五年の記念日を迎え、加盟国数が現在の16ヵ国から、ポーランド、ハンガリー、チエコ共和国を加えた19ヵ国に拡大する。NATOは冷戦の試練の下で、ソ連の強大な軍事力を封じ込める目的で構築された。それでは、冷戦が終結した今となってもなぜNATOは組織の拡大を計るほどの不安を抱き続け、ロシアはまたなぜNATOの拡張を恐れているのだろう? 拡大支持論者は、これによってかつての仮想敵国であった旧ワルシャワ条約機構諸国を傘下に組み込むことができると説くが3、反対論者は、これがロシア国内に破局的な結果をもたらし、対ロ関係が悪化することを懸念する4。NATOは、もし新規加盟の希望を表明している中央・東ヨーロッパ諸国の意向を退けると、加盟を拒否された国々の政情が不安定化することを懸念しなかったと言えるだろうか?また、自国に対する包囲戦略だとロシアに神経を尖らさせること無しに、以前はソ連圏に属していたこれらの衛星国をNATOの組織に組み込むことが一体可能なのだろうか? 拡大賛成論者は、拡大版NATOは冷戦時代の遺産として存在した国際政治の境界線を抹殺できるとの主張にこだわるが、反対論者はヨーロッパ全体に新しい分割線を自主的に引くこととなり、新しいNATOブロックから取り残された国々にとっては安全保障の条件が劣化し、ユーラシア大陸全体の不安定性が高まることとなると反論する。では、NATOの拡大は、もし何らかの影響があるとすれば、太平洋地域のパワーバランスに、そして、この地域の、そしてグローバルな国際秩序にどのような変化が現実に起こり、また将来生まれる可能性があるのだろうか?

 

 

 

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