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そうした認識が、保護主義と硬直性への全面的な後退をもたらすはずはありません。それは、自由と介入との適切なバランスをとる根拠となるものなのであり、自由主義的原理主義を、管理主義的原理主義や新世紀の重商主義といったものに置き換える根拠ではないのです。

 

日本でもこうした現実が広く理解されるようになったと承知しています。宮沢プランのような行動や、他の戦略がそのことを明示しています。また、迅速な国内景気回復の実現と、金融セクターにおける問題の解決のために、同様なイニシアチブと緊急の努力がなされることが、日本のみならず、地域的にも、国際的にも重要であることは、ご来場のみなさんには申し上げるまでもないでしょう。

 

もちろんEUは、アジア地域の要求にも積極的に応えています。加盟国全体で、IMFのプログラムに対し、二国間または多国間支援の20%近くを提供しており、そのシェアは日本を下回ってはいますが、米国を上回っています。

 

また、欧州・アジア首脳会議(ASEM)における、アジアの財、サービスに対して、WTO規則の範囲で現行水準の市場参入機会を維持するという公約は、単に言葉だけのものではありません。現在のEUとASEM諸国との貿易統計によると、1997年のEUからの輸出は19%減少した一方で、EUの輸入は19%増加しています。EUが自由貿易システムの維持に取り組んでいることは、このことによって明らかでしょう。

 

この取り組みへの義務は、多くの国に共有され、理解された場合に一層容易に果たせます。信頼できる指針と、漸進的な方向感覚を世界に示すためにも、G7、G22やIMFといった、国際的なグループや機関が、引き続きこの義務を果たさなくてはなりません。

 

その義務は、経済的な必要性から生じますが、その効果は明らかに物質的な関係を超える範囲に及びます。持続的な成長の促進のみならず、国際的な地域間、国家間、国家グループ間での組織的な協力が、安全保障、安定性、自由、正義および法治主義の観点から決定的に重要になっています。

 

これらは、国家間の共同体形成がもたらした、感傷的ではない、大変貴重な結果なのです。

 

EUは、二度の壊滅的な世界大戦と大戦間の破滅的な不況の発生ついての現実的な理解に基づいて設立されました。現在の統合拡大も、同じ理解に基づいて推進されています。

 

 

 

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