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まず明確なことは、拡大に必要な変化の本質と見通しが、大陸諸国に戦後最大の試練となることです。中東欧諸国を受け入れることの本質的な問題点は、過去のどの拡大事例よりも明らかに大きなものです。

 

中東欧の加盟申請10ヵ国は、一人当りGDPでEU諸国の三分の一、GDPの合計でもEU諸国の合計のおよそ5%を占めるにすぎません。これらの国々は、今世紀後半のほとんどを通じ、並立し、隔絶された政治的、経済的配置下に置かれてきました。多くの国民にとって、この10年にもたらされた市場経済や多元的な民主主義は、初めて体験するものでした。

 

そのため、法律、政治、経済および社会の構造と姿勢を西欧諸国と調整するためには多大な努力が必要です。しかし、加盟申請国が、1993年にコペンハーゲンで開催されたEU首脳会談で設定されたEU加盟のための政治的、経済的基準に従い、強い目的意識を持って努力していることに疑いはありません。

 

この首脳会談では、EU加盟を希望する中東欧諸国に対して、以下の必要条件を満たす意思と能力を持つすべての国が加盟可能であるという歴史的公約がなされました。

 

・第一に、加盟申請国はEU諸国で一般的なものと同様の、民主主義、法治主義、人権保障、少数民族保護の基準を持つこと。

 

・第二に、機能する市場経済と欧州単一市場内での競争的圧力に対応する能力を持つこと。

 

・第三に、40年にわたるEUの歴史のなかで合意されてきた、「アキ・コミュノテール」として知られる、大量かつ複雑な規則と法律を採用し、履行することで、EU加盟国の正式な義務を果たすこと。

 

欧州委員会は、加盟申請国の基準達成の進捗を評価する手続きを行い、これらの国の経済、民主化の状況に関する詳細な分析の後に、昨年、以下のような結論を出しました。

 

・第一に、EU加盟資格を完全に満たす申請国はないこと。

 

 

 

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