ユーロ導入の世界経済への影響としてもう一つ重要なポイントは、新通貨ユーロの国際通貨としての役割についてである。ユーロは、米ドルと並ぶ、あるいは米ドルに代わる基軸通貨となるだろうか。ユーロ導入によって、国際金融市場はより安定的になるだろうか。
ユーロが米ドルに優るとも劣らない通貨になるためには、世界の人々が積極的にユーロを利用しなくてはならない。伝統的に、経済学では通貨を利用する動機として三つがあげられている。交換の媒介、価値の貯蔵、そして価値表示(計算単位)である。
ユーロが交換の媒介として米ドルよりも頻繁に用いられるようになるかどうかを考える際には、ユーロを自国通貨として用いる人口と、用いる地域のGDPが参考になろう。当初から第三段階に参加する11ヶ国はユーロランドと呼ばれるが、ユーロランドの総人口は米国の人口より少し多い。国内総生産(GDP)ではユーロランドのほうが少ないが、EU15ヶ国では米国よりGDPが多くなる。つまり、国内での交換の媒介としてみれば、ユーロを用いる人・取引は、これまでの欧州各国通貨に比べてはるかに米国に近くなる。一方、国際的な交換の媒介としては、ユーロランド内の取引はユーロ建てが確実に増加するであろう。
価値の貯蔵の面で通貨が利用される場合は、その通貨が保有される期間が長くなるから、暫くこの通貨で持っていても大丈夫である、という安心がなければならない。つまり、いつでも良い条件で他の資産形態に変えることができるということである。そのためには、その通貨の取引が盛んで、取引残高が大きく、また誰にとっても明らかなルールのもとで取引されていなければならない。
取引残高という観点からは、短期債市場や株式市場の規模はユーロランド通貨建てよりも米ドル建てのほうが大きい。政府債の発行残高は米国とユーロランドで同じ位だが、言うまでもなくユーロランドでは発行体が一つでなく、様々である。一方、世界各国の外貨準備にしめる米ドルの比率が55%以上であるのに対して、独マルクは14%、ユーロランドの通貨は22%である。
金融取引に関するルールが明確・平等で、市場の透明性が高い、という観点からは、やはりユーロランド通貨は米ドルに劣っている。この点を改善するために推進されているのが、金融サービスに関する単一市場である。10月28日、委員会はこのための提案(行動計画)を承認したが、フランスの反対によってその実現が遅れることが予想される3。