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第3セッション

 

EU通貨統合の進展

 

慶應義塾大学 経済学部

嘉治 佐保子

 

1. これまでの歩み

 

欧州における経済・通貨同盟(Economic and Monetary Union, Emu)のプロセスは、1985年のルクセンブルグ・サミットにおけるコール首相とミッテラン大統領(当時)の合意によって欧州のアジェンダにのぼり、89年以降、本格化した。そして、デンマーク国民によるマーストリヒト条約批准拒否、92年と93年の通貨危機など様々な困難を乗り越え、多くの経済学者の予想に反して、99年からはその最終段階が始まろうとしている。

 

98年5月には、11ヶ国1が第三段階に参加することが正式に認められ、欧州中央銀行の総裁以下6名の役員会メンバーが選ばれた。また、11ヶ国の通貨と新通貨ユーロの交換レートが決まり、99年1月以降、このレートと整合的な形で11ヶ国通貨相互の為替レートは恒久的に固定される。当初はユーロは計算単位であり、通貨として流通するのは2002年の1月からである。加盟各国通貨とユーロが並んで流通する期間は2002年7月ころまでと予想されるが、オランダではこの期間を長くても四週間とする動きがある。

 

今日ではよく知られていることであるが、経済・通貨同盟がここまで推進されてきた背景には、歴史にねざす欧州統合に対する熱意がある。この熱意が消えることは考えられず、世界は経済・通貨同盟の及ぼす様々な影響を受け入れる以外にない。以下ではこの影響について考察したい。

 

2. 欧州経済への影響

 

新興市場での混乱を逃れようとする資金がシフトしたこともあって、欧州経済は米国経済と並んで比較的に良好な状態にある。勿論、失業率は最近になってようやく平均で10%をわずかに下回った程度だが、これは構造的要因による部分が多いので、景気回復によって著しく減少するとは思われない。

 

 

 

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