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こうして金融面での差異の問題は新たな姿をみせるようになった。それは既知の地域的な違いに関するものではなく、むしろ未知の地域的類似性の問題である。技術的にみて課題となるのは、ユーロへの収斂を受けて地域の物価動向が急速に変化する中で地域の金融情勢をいかに解釈するかという点である。ほとんど分かっていない新たな地域的動きに対処した金融政策の策定はかなり困難であろう。我々はこのジレンマがすでに生じているのを見ることができる。ECBは、スペイン、イタリア、ポルトガル、アイルランドなどの旧「周辺」諸国における金利引下げについて、ユーロ圏における金融緩和政策を示す証左として挙げている。そこでの考え方は、金利を変更していない地域があるにせよ、一部の地域が以前よりも低い金利を享受しているから、ユーロ圏全体では簡単な計算により、実際に金融政策が緩和されたにちがいないというものである。

しかし問題は、例えばスペインの短期金利をドイツやフランスの金利に徐々に合わせていくことがレジームの変化の一部であるのか、それとも自律的な政策決定と解釈されるべきなのかを判断しなければならないことである。ECBでは、後者の解釈が正しいとしている。ユーロ圏における収斂とは、すべての金利が共通の基準に基づいて一律化しなければならないことを意味する。この解釈によれば、スペインないしイタリアの金利が中核諸国の金利に中途半端ではなく完全に調整されるという事実は、共通の基準が引き下げられることを意味している。しかしもう一つの、少なくとも同じく妥当な解釈は、南欧(その金融政策は現在ではフランクフルトから実行され、これを変更することはできない)において物価の動きが劇的に変化したので、金利が「内生的に」その新しい基準に合致しなければならないというものである。スペインの金融レジームはユーロ圏のそれとなる。「周辺諸国」の金利の低下は、このような物価レジームの変化の帰結であり、これは、例えば、スペインの予想を上回る最近のインフレ鈍化に現れている。

 

この2つの対立仮説を解きほぐすためには、さらに多くの証拠を使わなければならない。典型的には、ECBは、現在多くの欧州諸国が置かれている複雑な過渡的状況において、与えられた解釈をより正当化するのに役立ちそうな「経済指標バスケット」を使用するものと予想するであろう。そしてこれが実際にECBがやろうとしていることなのである。しかしここに落とし穴がある。すなわち、欧州における金融政策決定の明確化に不可欠な追加的経済指標は、まさにECBが秘密にしておきたいものなのである。しかしそれらを秘密にしたままで、同行は、その見解の正当性を民間部門にどのように納得させることができるのだろうか。

 

 

 

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