社会民主主義者は経済成長を急速に促進させ、失業を削減することを優先的な政治的課題にしている。彼らはフィナンシャル・タイムズによれば17加盟国のうち15ヵ国が「タカ派」である欧州中央銀行制度に対立しているのである。このような状況では、ヨーロッパにおいて経済成長と雇用を保証する最善の方法について対立が起こることは避けられない。
他方で、誰もが両者のそれぞれの権限を定めようとしている。(他のすべての非常に複雑な条約同様)マーストリヒト条約にはあいまいな点があるため、政府と中央銀行は、強硬な立場から「交渉」しようとするため、(誰が為替レートに関する政策を決定するか、「価格の安定化という目標に偏見無しに」という言葉が具体的に何を意味しているのか、 マーストリヒト条約第105条第2項に規定された欧州委員会の目的の達成に貢献するために、 ESCBは欧州委員会の経済政策全般を支援すべきであるなど)、議論の対象となる領域に踏み込んでいる。その結果、対立が避けられなくなっているのである。しかし、本当の「交渉」は、まだ始まっていないことを忘れてはならない。本当の交渉が始まれば、妥協の余地を見出すために、現在の興奮したレトリックの大半は消えるだろう。繰り返し述べるが、ユーロの誕生直前に両者の意見が一致していたなら、その方が良かったであろう。しかしながら、現在の論争は、破壊的な結果をもたらさないならば、形を変えた恩恵をもたらすかもしれない。実際、政府と中央銀行はそれぞれを特徴づける強い見解を持っているため、非常に明確な妥協を打ち出さなければならない。長期的に見ると、これにより中央銀行、政府の双方の信頼度が高まることになるのである。
6.ユーロは通貨変動の安定に貢献するか
短期的な予測については、正直にわからないと認めるしかない。ユーロとEMUは他に類のない実験であり、短期的な進展については、あいまいな考えしかない。前述のとおり、ユーロへの移行については、通貨価値の大きな変動を伴わない円滑な移行が予想される。しかしながら現段階では、ユーロの失敗やその他のシナリオは、起こりそうにないが、完全に否定することはできない。
しかしながら、中期的にはユーロは安定要因になろう。実際、ユーロはよりバランスのとれた国際通貨制度を創設する機会を提供するだろう。明らかな例として、将来、新興市場の通貨を、(通貨危機が起こる前のタイのように)ドルのウェイトを80%以上にした、まやかしでない「真の」バスケット方式に固定させる可能性が挙げられる。
現在、広い範囲で意見の一致がみられるように、事実上米ドルに固定されていた東南アジアの通貨が過大評価されたことが、アジアの通貨危機を発生させた原因の一つになっている。円やヨーロッパの通貨に対しドル高が起こり始めると、投資家は東南アジアの国々に自国通貨を切り下げずに債務を返済する能力があるかどうか、疑問を抱き始めた。