これらの要因は長期にわたり徐々に非EU加盟国に影響を及ぼすことが予想されるが、ユーロの導入により、国際貿易関係におけるインボイス発行の慣行の仕組みが崩壊することが予想される。おそらく過渡期が始まってすぐに、ユーロでインボイスを発行する貿易が非常に急速に増加するであろう。通貨の国際的な使用にはかなりの惰性が見られる一方、ユーロ導入直後に、ヨーロッパの企業は自国通貨をより好む態度を表明することが予想される。したがって、世界貿易におけるユーロでのインボイス発行の割合は、ユーロ導入の初期段階では20%程度になるという推測は妥当である(この数字は幾つかの計量経済の研究において支持されている。一例としてHartmanの研究(1996)を参照)。
ユーロは国際通貨市場と国際金融市場において、取引通貨としても重要な役割を果たすことになろう。この役割は静的、動的な影響の結果として生まれる。静的な影響は自明のものであり、既存の準備通貨、金融資産、債務がユーロに転換されることにより生じる。動的な影響は新しい資産や債務がユーロで獲得されたり、発生することにより生じる。ここでは、大規模で、流動的で、統合された資本市場の創出が、ユーロの発展を促進する最も重要な要素になろう。国内通貨の市場に比べ、ユーロの市場がはるかに大きくなるため、ユーロでの取引にかかるコストは、はるかに低くなり、したがって、既存の国内通貨に比べ、ユーロが取引通貨になる可能性が増大することになろう。ユーロがますます国際貿易においてインボイス発行の通貨として使用されるようになり、国際資本市場や世界の富のポートフォリオにおいて、さらに保有外貨として、より重要な役割を果たすようになれば、ユーロを取引通貨そして使用する可能性は増大するだろう(Bekx(1998)を参照)。しかしながら、これらの進展は時間がかかりそうであり、ユーロは徐々に取引通貨としての役割を果たすようになると思われる。
しかしながら、ユーロの国際的役割は通貨当局の特定の政策により強化されることが考えられる。ESCB(欧州中央銀行制度)はユーロの国際化のプロセスを促進するため、直接介入するのだろうか。ドイセンベルクECB(欧州中央銀行)総裁は先週ニューヨークで、この疑問に非常に明確に答えてくれた。
「ESCBは中立の立場を取るであろう。ESCBはユーロが国際通貨に発展するのを促進も妨げもしない。ESCBはユーロが市場の力を通じて国際的な役割を果たすようになれば、これを受け入れるだろう。米ドルに挑戦する政策を意図的に採るつもりはない。しかしながら、ESCBがレートの安定維持に成功するかぎり、ESCBはユーロを国際通貨として使用することを自動的に促進するであろう。ユーロがどの程度のペースで国際通貨に発展するか、容易に予測できない。歴史から手がかりからは、段階的になろうが、今回は過去の経験が示すより早いペースで国際通貨に発展する可能性も否定できない」(W・F・ドイセンベルク、The Stability-oriented Strategy of the European System of Central Banks and the International Role of the EURO(欧州中央銀行制度の安定志向型政策とユーロの国際的役割)、1998年11月12日にニューヨーク経済クラブで行われた演説)。