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ロシアの弱体化は明らかだが、たとえロシアが強力で国内的に統一され、有能かつ効率的な中央政府の下で国内政策と対外政策が策定されても、モスクワは東欧や地中海へのNATO拡大を阻止することはできない(例えばキプロス。ギリシャ、トルコ、イギリス、米国の妥協が得られれば、NATOはキプロスに拡大する可能性がある。)。

ロシアが外圧から国益を守るために「大国」(コーズィレフは1994年に「大国であること」はロシア固有の、したがって永遠の性質だと言った。)として行動できないことは、西側、特に「唯一の超大国」である米国にどう対処するかという点で、モスクワにかなりの欲求不満が生じた。だが、この自発的ではないプラグマチックな対応は、特にモスクワにいる旧ソ連以来の大ロシアのパワーエリートには不満かもしれない。しかし、全ての現実的目的のために、ロシアは敵対的な現実に譲歩した。プリマコフ(前外相)は1993年11月にロシア海外情報機関の長として、「ロシアの西側国境に向かって、戦争機構であるNATOが拡大する危険なアプローチ」に対して公式に警告したことがあるが、<現在>そのプリマコフ首相指揮下のロシアの外交政策は、いまもNATO拡大を阻止し、少なくともNATOがバルト3国とフィンランドに到達するのを防止しようとしている。

 

NACは1997年7月のマドリード会議でポーランド、チェコ、ハンガリーのNATO加盟交渉を1999年4月までに開始することを決定したが、その後ロシアのチェルノムイルジン首相(当時)は、ロシアとNATO諸国(西はドイツ、デンマーク、ノルウェー、南はイタリア、ギリシャ、トルコ)の間にバルト海から黒海に至る「非同盟」国による緩衝地帯を設けることを提案した。EU加盟国で非NATO加盟国である北欧のスウェーデンとフィンランドは、「非同盟地帯」の例に挙げられた。この緩衝地帯はOSCEにより政治的に特別な扱いを受けることになる。ロシアの軍隊は、西にある飛び地のカリーニングラード(リトアニアとポーランドの間)の軍隊を含めて、相互に軍備管理を受け、すでにCSCEで合意した事項以外の軍事行動に関する限界と抑制について「信頼醸成」を促進する。これは、隣接する全ての国が参加する新たな安全保障条約によって実行される。チェルノムイルジン首相はその詳細は述べなかったが、1998年初めにエリツィン大統領が再び提案した。このときも詳しいことは明らかにせず、書面による提案も送付しなかった。当時のプリマコフ外相は国防相とともに、公式にNATO拡大に対する「対抗措置」の策定に取り組んでいた。しかし、NATOが東方への「アウトリーチ」のために「拡大」(1993年12月、ブリュッセルで行われたNACでのウォーレン・クリストファー米国務長官の発言)を決定しようとしていた1993年〜1994年と同様、モスクワは何もしなかった。ロシア政府はNATO拡大を防ぐ希望を持ちつつも、避けられなければ甘受する用意があった。

 

 

 

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