ロシアとの関係についても同じことが言える。ボスニアで必要なロシアとの特別取決めをまとめるに当たり、米国に代わる国があっただろうか。また、ロシアを交渉に参加させて1994年<訳注:正しくは1995年>の「デイトン和平合意」を飲ませることができた国が、米国以外にありえただろうか。したがって、NATOは欧州の「平和維持という使命」のためでさえも、米国が主導し、統制する組織であることに変わりはない。全ての国際危機や紛争は米ロ関係次第である。拡大NATO(米国政権が1999年のNACでの採択を計画している第2次「新戦略方針」と1991年以降の新たな構造を有するもの)でさえも、グローバルな重要性を持つ独立した国際機関となることは、現在も将来もできない。欧州外でも欧州内と同様、ロシアや中国との紛争や緊張関係、中東での衝突に対して、NATOは米軍の「補助的軍事力」あるいは補完的軍事力としてしか機能できない。
したがって、現在の同盟関係に見られる米国と欧州諸国との間の戦略的、軍事的及び技術的な意味での不均衡が解消されない限り、NATOの拡大に真の「グローバルな意味合い」はない。日本を見ればわかるように、経済力が、組織された物理的な勢力や軍事力に取って代わることはできない。たとえ経済力がその両者の前提条件であるとしても、それに変わりはない。
2. NATOの拡大は地理的には中欧に限定されるだろう。バルカンでは紛争が続いているため、近い将来に東南欧州諸国のほとんどはNATOに加盟することはないだろう。ただしスロベニアとルーマニアは、1997年初め以降両国の加盟がNATOの検討課題に取り上げられているため、承認されるかもしれない。一方、ドイツと関係の深いブルガリアは、ドイツの支援によりスロベニアやルーマニアとの同時加盟を期待している。今のところ、1999年4月のNATO加盟候補国に選ばれたのは、ポーランド、チェコ、ハンガリーの「中・東欧」3ヵ国である。しかし、オーストリアとスロバキアが加盟しない限り、この3ヵ国の加盟によるNATOの東方拡大は<中・東欧の>中央部だけになり、地理的均質さと地政学的一貫性を欠くことになる。現在、欧州の平和が危機に直面しているわけではないから、これは軍事的欠陥にはならないとしても、政治的には問題がある。1998年にブッシュ前大統領が述べたように「欧州の全体性と自由」を確保し、「欧州=大西洋の同盟と安全保障システム」(1993年のフォルカー・リューエ・ドイツ国防相の発言)を拡大する政策によって、「中・東欧にまで安定を拡大する」(1994年のマンフレート・ヴェルナーNATO事務総長の発言)ためには、「安定の移転」(1994年以降のNACの決まり文句)が起きようとしている地域において、政治的一体性を崩壊させてはならないからである。
しかし、別の理由でオーストリアにもスロバキアにも、<NATO加盟のための>政治的条件は存在しない。NATO諸国の政府は1994年にNATOとEUの両者の拡大政策を決めた際に「同時並行アプローチ」を採用したが、それを放棄した主たる理由の1つがこの障害である。