第2セッション
NATO拡大とロシアの態度
ケルン大学教授
ロタール・ルール博士
1. NATOは北大西洋条約の対象となる欧州=大西洋=北米地域の集団的防衛同盟だが、主として欧州の安全保障に関するものである。このNATOが近く拡大するが、そのグローバルな意味合いは明確ではない。それどころか、欧州NATO諸国及びドイツの東または南東にある10ヵ国(いずれもNATO加盟を希望)の基本的関心事を検討すると、その意味合いはきわめて不明確である。1999年以降この10ヵ国全てがNATOに加盟すれば、「欧州NATO」または地中海東部のギリシャとトルコを含めた地理的な意味での全「西ヨーロッパ」は、東欧のほとんどを超えて、<ソ連解体後の>ロシアの新たな西部国境近くまで達する。最終的にはバルカン地域のほとんども含むことになるだろう。ただし、セルビア=モンテネグロ(「旧ユーゴスラビア」から独立した他の共和国を除く地域)と、おそらくここ数年間はクロアチア、ボスニア=ヘルツェゴビナ、さらに多分マケドニアを除く。崩壊寸前のアルバニアもNATO加盟を希望する10ヵ国の1つだが、セルビア内のコソボ問題による混乱が収まらない。これはNATO同盟の一体性とその目的という点で、NATO拡大に内在する危険をよく表している。
欧州のNATO主要国はNATOの拡大(または東方への「開放」)を支持しているが、自国利益の追求を忘れたわけではない。例えば、ドイツは自国の地域安全保障上の利益を、単純な地政学的視点から考えている。ドイツは、隣接するポーランドとチェコを西ヨーロッパから離反させないためには、ドイツと両国との国境が<ロシア・ブロックとの境界として>EU及びNATOブロックの東端であってはならないと考える。ドイツは両国を「欧州=大西洋同盟・安全保障システム」に組み込むことが、中欧の平和的発展を保証するものであり、3国間の政治的、経済的関係を管理する上で最適の枠組みだと見ている。また、ドイツの外交政策ではハンガリーよりチェコが、チェコよりポーランドが優先されるが、ハンガリーはドイツとの間に何の問題も抱えていないため、友好的なパートナーと見なされる。そこで、ドイツはハンガリーをNATOとEUへの早期加盟優先国に入れている。その他の東欧、中欧及び南東欧州諸国のNATOとEUへの加盟について、ドイツは中立的態度を取っており、必ずしも積極的ではない。このうちドイツが他国より優先するのはスロベニアである。おそらく民主政治の確立と自由主義的な法の支配する市場経済への移行を条件に、スロバキアの加盟も優先されるだろう。もちろん、後者の条件は全ての加盟候補国に適用される。