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アメリカのある外交官は、「NATOの本来の機能とは、冷戦時代からの遺産なのだが、ロシアの帝国主義的野心が頭をもたげるのを阻止する行動をとることであった」と述べている(10)。もしNATOを拡大しようとする性急な政策が、結果として東西両世界に対するロシアの政策を硬化させることになれば、それは悲劇としか言いようがない。拡大賛成論者の間ではすでに具体的準備に入っている者もいる。カーター大統領時代に国家安全保障問題顧問であったズビグニュー・ブレジンスキーは、NATOが1999年12月までに次回の加盟予定国を指定し、「ほぼ一年後には加盟を認める」旨の決議を同年4月に実行することをすでに公式に要求している(11)

 

1999年には複数の首脳会談が予定されている。従って、来年度を通じて、NATO問題に関して強気の発言が飛び交うことになる恐れがあり、特に、来春にワシントンで開催される首脳会談では北太平洋条約締結の50周年記念にも当たるのでその可能性が高い。全会期を通じての深慮が望まれるところであり、この問題-それはヨーロッパの安全保障の枠を越えた問題なのだが-がドイツでのG-8首脳会談でも真剣に考慮されることを希望する。これに加えて、USとEUとの間の首脳会談や、OSCEの首脳会談も安全保障問題を検討する独自の場を提供するだろう。繰り返して結論を言えば、NATOの拡大問題は単にヨーロッパだけの問題に止まらず、グローバルな規模の安全補諸問題であることを関係国の政策立案者達が自覚することこそがきわめて肝要なのである。

 

 

(1)Olav F. Knudsen, "Northern Security: Challenges and Responses," in Mathias Jopp & Riku Warjovaara,eds.: Approaching the Northern Dimension of the CFSP, Ulkopoliittinen Instituutti, Helsinki, 1998, p.28.

(2)Zbigniew Brzezinski, "NATO: The Dilemmas of Expansion," The National Interest, Fall 1998, p. 13.

(3)Alison Mitchell, "NATO Debate: From Big Risk to Sure Thing,"New York Times, March 20, 1998.

(4)"Hans van den Broek, Europe's Expander," The Economist, June 6, 1998.

(5)Joel Blocker, "East: The EU Touches on Expansion Issues at the Cardiff Summit," Radioo Free Europe/Radio Liberty, June 16, 1998, p.1.

(6)参照文献: the Document of the Negotiations on Confidence- and Security-Building Measures and Global Exchange of Military Information,1994, Vienna, OSCE.

(7)Remarks by General (Retired) Anatoly V. Bolyatko, Institute of Far Eastern Studies, Russian Academy of Sciences, Conference on Limited Nuclear Weapons Free Zone in Northeast Asia, Helsinki, October 12, 1998(書き込み注は筆者のもの).

(8)筆者が直接インタービューしたもの October 12, 1998.

(9)Henry Kissinger, "NATO: Make it Stronger, Make it Larger,"Washington Post, January 14, 1997.

(10)James E. Goodby, "Europe Undivided," The Washington Quarterly, Summer, 1998, p. 12.

(11)Zbigniew Brzezinski, "NATO: The Dilemmas of Expansion," The National Interest, Fall 1998, p. 15.

 

 

 

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