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これ以外にも、幾つかのより小規模なメカニズムが冷戦後の時代に組織されていて、或程度までNATOに似た機能を提供してはいる。この中には、NATOとNATOと関係のないヨーロッパ諸国の間をリンクする『平和のパートナーシップ』(Partnership for Peace)や、 NATOとWEUが相互補完的に協力するのを目的とする『ジョイントタスクフォース集団』(Combined Joint Task Force)のメカニズムなどがそれだ。しかし、これらはいずれを取ってもNATO加盟の代用品としての役割を果たすとは決して誰も考えてはいない。このようなわけで、東欧諸国は、非公式か公式かを問わず、北大西洋条約の下での安全保障による保護を希望しているのだ。

 

東欧諸国自身がNATOへの加盟を希望しているという事実に加えて、この問題には米国の国内政治上の要素が絡んでいる。米国社会には、自分の本来の出身国に対する愛情が選挙時の投票動向に影響を与えるだけの大きな規模を持った少数民族グループが存在している。ポーランド系やバルト三国系のアメリカ市民は、表向きは高邁な地政学的目標を掲げながら、実はこの種の有権者の票を集めようとする政治家にとっては格好の対象となるのだ。NATO拡大問題は、この二つの要素が-それに、EUよりはNATOへの加盟が容易である点もあって-結合されると、NATOが組織の拡大の第一歩として、何故ポーランド、チェコ共和国、ハンガリーといった諸国を選び出し、その加盟を認知するのかが見えてくるのだ。そしてロシアの指導層は、不満を唱えながらも、NATOとロシアの間の特別合意と、ロシアがG-8首脳会議に参加を認められ、同時に巨額の対ロ金融支援を得られるという条件でともかくこれに同意したのだった。

 

NATOの最初の拡大計画の段階では、米国内には反対意見もあった。例えば、「かつて冷戦時代にソ連の封じ込め政策を立案したジョージ・ケナンは齢94歳の米国外交の長老だが、NATOの拡大はポスト冷戦時代のアメリカ外交政策上最も重大な過ちとなろうと主張している(3)。」それにもかかわらず、米国連邦議会の上院は、賛成80票反対19票で、NATOが新規に三ヶ国の加盟を認めることを承認した。

 

すでに述べたように、NATOへの加盟はEUへの参加よりも容易である。NATOへの参加に必要なのは、当該国の軍隊が自国の政府による文官管理の下に置かれているという条件だけなのだが、EUへの参加には、それが民主主義国であるのに加えて、「適切な司法制度を持ち、政府の官僚制度が有効に機能しており、まつとうな市場経済制度が存在している必要があり、更には、EUの諸規制がすでにその国の法制に組み込まれている必要がある」のだ(4)。EU関係の基本法に各種の関連法令や規則のすべてを加えると8万ページを越える膨大な法典となるのだ。

 

 

 

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