第2セッション
NATO条約機構の拡大とロシア
慎重な政策が求められる時代
IEPアドバイザー・マネージングディレクター
ジョン・H・ケリー
序文
冷戦時代の終焉を受けて、二つの大いなる多国間組織-ヨーロッパ同盟(EU)と北大西洋条約機構(NATO)-は東方拡大の過程に入った。ヨーロッパの政治地理上のこの変化は、旧ソ連邦の盟主であったロシアの国内で多様なレベルの不安と反対の反応を引き起こした。ロシアが示した反応はしかし、この二つの西側の組織に対して、それぞれの性格に対応して温度差が存在したことは留意するに値する。EUに関しては、条件付きで受諾するという意見が中心で、一部のロシア人の間では、EUが次第にロシアに接近すれば、ロシアにとっての経済的利益がこの新しい近隣関係から生まれると主張する支持の声も聞かれた。
しかし、安全保障同盟であるNATOの最前線がロシア本国に接近する可能性に対するロシアの反応は、これよりも厳しいものがあった。最も強力な共産主義独裁国家から民主的な市場経済国家へ移行する過程で、ロシアは巨大な社会的、経済的、そして統治機構の変化に直面せねばならなかった。ロシア国民にとっては、絶対的な権力でワルシャワ同盟諸国の上に君臨していた時代のロシアに別れを告げ、ソ連の崩壊を受けて自国の国土と影響力の及ぶ範囲が縮小するのを目の当たりにすることに慣れ、その事実を受容するのは困難な体験であった。また、この巨大な地政学的変動に伴ってロシアには経済的不安が生じた。
NATOの拡大は、ロシア国民の間に不安を駆り立てたし、その不安は今日でも跡を絶たない。ロシア政府は、エストニア、ラトビア、およびリトアニアがNATOに加盟するのに声高で反対している(1)。これ以外にも、例えばウクライナが加盟する可能性に関して見られたような別の不安をロシア人は抱いている。
そして、次にはこれが、中央政界に打って出る野望を抱く政治家達が掲げる右派民族主義的スローガンによって増幅され、ロシア国内にパラノイアの状態を惹起することになるのだ。モスクワのテレビニュース解説者によれば、ロシアは東西両側で孤立を余儀なくされていると感じているという。