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いわゆるEUの第三の柱(域内国境管理を含む内務及び司法分野での政府間協力)についての目に見える相当な進歩は政治的にも心理的にも不可欠である。しかし、この問題に関する調整は政府間交渉で行われているため(第二の柱である共通外交安全保障政策と一緒に)、第一の柱が超国家的に行われているのと異なり、ゆるやかな前進にとどまる。第三の柱における加盟候補国のスクリーニングは全く開始されていないことについては驚くに値しない。

六月二九日には審査のための専門グループが結成されたが、未だに会合は持たれていないようである。現在、委員会における加盟候補国の問題点及び実績についての全体像はあまり明白でない。(ただし、ハンガリーでは大幅な法制の改革が進んだようである)。必要とされる詳細な評価と比較検討はこの段階ではありえそうもない。補助的にPHARE(the EU Assistance Program for Central Europe)は予備的な折衝のため代表を各中欧加盟候補国に五月と六月に派遣した。

多くの加盟国がその経験や適性が活用されなかったとしてこの派遣を批判している。また加盟候補国はプロジェクト提案について準備・提出する時間が足りなかった(二-三ヶ月)としている。予備的な代表らの報告内容はまだ公表されていないが、かなり曖昧で一般的なことに終始しているとされる。にもかかわらず、将来の第三の柱におけるPHAREプロジェクトに関する選択の指標となる資料として活用されることになる。このような状況の中で加盟希望国への財政援助はどの程度、迅速にかつ優先度の高い分野へ配分されることになるだろうか。

 

時流を変える時

この短いレポートは、EU拡大問題の一部に焦点をあててきた。このような状況下では、現状は必要以上に暗いようにみえる。しかし、時流が決定的な行動によって修正されなければ、ヨーロッパにとっての最大の難問及びチャンスとされてきた「より大きなEU」実現への深刻なリスクとなる恐れがある。拡大の失敗もしくは大幅な遅滞は加盟候補国内での反発を呼び、政府が選挙区である程度の犠牲を強いる改革を推進することを難しくするであろう。まだ楽観できるだけの根拠もあるが、現状とその行方を注意深く見守る必要があろう。これはEU加盟国のみならず、中欧の将来的発展に明らかな利害がある米国など他の自由貿易国も注目すべきである。中欧諸国の変遷はかなり進んだ国もあれば、さほどでもない国もある。しかし、これらの成功にも拘わらず、中欧の繁栄と安定はまだもたらされてはいない。必ずしも先の見通しがないものであれ、中期的な経済論議で将来のヨーロッパの競争力を念頭におけば、EU拡大は全面的に推進されるべきであると主張する。

 

 

 

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