EU内構造改革への抵抗
EU加盟希望国の一人当たりのGNPはEU最貧国の約六割にしか満たないため、新規加盟国を迎えるにあたって加盟国は様々な構造改革を実施する課題に直面している。この大きな農業人口をかかえるEU最貧国は、現在のEU補助金からもっとも恩恵を受けており、EU拡大に非常に消極的である。構造基金と共通農業政策(CAP)の改革は、より裕福な加盟国からの重要な資金移譲を分散させる結果となる可能性があるからである。 南欧のある政治家が九月半ばポーランド人に、翌日のカレル・バン・Miert EU弁務官のEU拡大の必要性力説に反して、EU基準への調整に「いくら時間をかけて頂いてもよい」旨伝えたという話には納得できる。フランツ・フィシュラー農業弁務官 の現在の農業助成金を徐々に減らすという、かなり控えめな提案に対してすら強固な抵抗を示した国もある。この提案の内容が果たしてEU拡大のために充分といえるかは疑問である。ひとつの解決策としてはEUにおける共通農業政策の大部分を各国レベルに送還することもできるが、これは欧州の連邦主義者に重大な後退と批判されるであろう。
既存の構造基金及び農業予算のままで新規加盟国に新たな助成金を提供することは、EU農業予算の破綻をもたらす。EUが負担できないことはいうまでもない。多少のEU支出増加ですら今はままならない。またEU拡大推進に最も熱心なドイツや、また限定的な受け入れを支持するデンマークとスウエーデンもそれぞれのEU予算に対する拠出は明白に拡大より縮小すべきだとしている。この原則は「アジェンダ2000」の中に文章化されており、1997年7月にEU委員会より発表されている。ドイツはEUの拡大に伴って中欧諸国から安い労働力が大量に流れ込み、国内の雇用事情を悪化させるおそれがあると懸念する。ドイツ人-そして現職のオーストリア大統領-は新規加盟国からの自由な労働力の移動については特にかなり長い過渡期を想定している。この立場はボンの新政権下でも当分続くであろう。これらの立場に沿った案が出させれば、加盟候補国からかなりの反発が予想される。
「先行国」で進まない調整
ドイツの非公式な場での発言には「先行国」、特にポーランドの緩慢なEU基準への調整に対する懸念がみられる。もし早急に改善が見られなければ、EUは困難な選択――加盟の条件を緩和するか、欧州の発展にばらつきをもたらすであろう段階的な加盟を認める――を迫られることになるが、どちらも容易には受け入れられないであろう。既存の農業に対する助成金(CAP)の改革に時間がかかり、新規加盟国は助成の対象にならず、またどこも近い将来経済通貨同盟(EMU)に参入することが出来なければ、地域格差の前提条件は揃ってしまう。加盟の条件を緩和することは、加盟国の国内世論の反発が予想される。またボンの政権がポーランドの加盟を他の「先行国」より遅らすことに賛成することはほとんど可能性がないと言ってよい。中欧諸国については一定の分野における過渡期の延長が予想される。