一つ目は、有り体にいえば、加盟している大国と小国のバランスをどうとるかというものです。おそらく憲法に関する問題以外については、加盟国がそのように分裂することはまれですから、このアプローチはかなり人為的なものといえます。EUの規則や手続きには、小国に好意的なバイアスがあると思われるかもしれませんが、これは歴史的な理由から、またEUの決定が確実に効力を持っために設けられたものです。EUが拡大し比較的小さな加盟国が増えるにつれて、システムがバランスを失い、非民主的にさえなるのではないかと懸念を抱く向きもあります。これらの議論の全てが検討を要するわけではありませんが、何らかの変化が起こるのは確実でしょう。同時に、35のメンバーからなる委員会は、実際的でなく効率が悪いという懸念もあります。
やや込み入った議論を大幅に単純化すると、明らかなトレードオフの一つは、閣僚理事会における大国の相対的な議決力を増加させて現状のバランスを維持することと、委員会の効率を確保するために委員を各国1人にし、大国の委員を1人減らすことの両立にあります。妥協案はアムステルダム条約交渉での議論に上っていたものの、交渉上の時間的制約のため、また実社会での議論が続いていたため、採択はされませんでした。政治的には統合拡大に際して必要だと売り込むべきだったのかもしれませんが、ここ2、3年の内は必要ないものなのでしょう。この点に関してアムルテルダム条約には批判がありますが、解決策は検討されており、統合拡大交渉の過程で比較的容易に採択されることになるでしょう。
未解決な問題の二つ目は、拡大された欧州には、なおも統一的システムが存在するに足る十分な均質性、十分な共通利益があるのかという大きな疑問です。アムステルダム条約交渉の準備段階では、膨大な時間が中核、同心円、 可変形態翼、複数速度など多くの概念の議論に費やされました。
重要なのは、三つの異なる状況を区別することです。一つは、新規加盟国のEU参加をいつにすべきかという純粋に移行に関する問題です。これらの国々を主流に引き込むのにどのくらい時間が必要でしょうか。過去に特定の政策分野では、非常に長い移行期間が設けられました。二つ目は、経済通貨同盟での英国への対応のような、例外に関する取り決めの必要性という問題です。しかし、これが三つ目の、何らかの系統的な可変形態翼が必要かどうかという問題点に必然的につながるかは疑問です。マーストリヒト条約では少数派の離脱権が議論となりましたが、その反動で、アムステルダム条約では多数派の先行権が議論の焦点になりました。最終的に、アムステルダム条約では可変形態翼を実現できる仕組を作ることで妥協が成立しました。多くの付帯条件がつけられ、おそらくその利用は不可能でしょうが、真の意義は少なくとも存在していることにあります。この先例で、過度の議事妨害が回避可能であることが明らかになったわけですから、交渉態度も変わるはずです。