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EUにおいては、この種の構造がもたらす重複した形態の権力機構は、むしろなじみ深いものでした。一方、EU域外では、NAFTA、WTO、国際刑事裁判所など異なる形態の重複した権力機構が産まれています。しかし、この道ではEUははるかに多くの経験を積んでいるのです。そのことを踏まえて、EUの基本文書であり、「憲法」である、アムステルダム条約について述べたいと思います。この条約は、ユーロ導入と統合拡大という二つの大きな発展の陰で大変過小評価されてきました。おそらく条約が大した論議もなく採択されたことがその理由でしょうが、条約によって多くの重要な変化がもたらされたのです。これらの特徴的な変化と並んで興味深いのは、しかしながら、アムステルダム条約によって、EUの基本文書が、作業プログラムと呼ばれていたものから真の憲法により近いものへと発展したことです。以前の条約では、プロジェクトの進行に関して、加盟国の決定が尊重されてきました。最近の条約、特にアムステルダム条約では、加盟国や機関の間の力のバランスをとることに、一層焦点が絞られています。これは、EUという政治システムを有効に機能させるためなのです。

 

興味深いのは、この流れを受けて、アムステルダム条約に関する交渉がその前身であるマーストリヒト条約とは大きく異なるものとなったことです。マーストリヒト条約の交渉は、一言一句に執着する古典的な政府間交渉の典型ともいえ、加盟12ヵ国全てがあらゆる付随条項に修正を加えるといったもので、密室で交渉が進められました。しかし、アムスデルダム条約締結とそれに先立つ全過程において、交渉は討論会のように運営されたとまではいえなくとも、少なくともそれに近い枠組みで行われたのです。その理由としては第一に、交渉は正式には非公開だったものの、その内容が広く公表され、議論されていたこと。第二に、広範囲にわたる議論の後、結論の概要を時には選択肢付きでまとめるというラウンドが重ねられたことが上げられます。ラウンドを重ねるにつれて、暗黙の内にではあれ次第に選択肢にふるいがかけられ、最終過程では、主要な選択肢を法律・条約に盛り込むことで総意がほぼまとまっていました。各国代表は「討論会」のような政治的環境で「運営」された交渉結果を報告していたため、多くの点で最も激しい交渉が行われたのは、各国代表と本国政府の間においてだったのです。

 

 

 

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