第4セッション「拡大ヨーロッパの東アジアヘのインプリケーション」
ニール・キノック氏(欧州委員会委員、元 イギリス労働党党首)は、1]新しい加盟国の受け入れというEUの拡大プロセスは進展して行くが、EU加盟希望国は民主主義、法の支配、市場経済などの条件を満たすことが必要であり、2]経済・社会・政治的に安定したヨーロッパ統一市場の拡大は、EU加盟国のみならず世界の各国に経済的利益や投資機会を提供し、世界経済の安定に貢献する、との見解を示した。
ラメッシュ・タクール教授(国連大学副学長)は、「NATOの拡大、同盟関係、国際戦略の展望」と題して報告し、1]NATOはアメリカのプレゼンスを正当化するシステムであり、NATOの拡大はアメリカの対欧政策の一つの帰結である、2]NATOの拡大は、ロシアの地政学的な立場に変更を加え、それが中ロ関係、ひいてはアジア太平洋地域の安定に影響を与えるおそれがある、等の指摘をした。
植田隆子(うえたたかこ)教授(国際基督教大学教授)は、「ヨーロッパの拡大と日本」と題して、1]日欧の協力関係は強化されつつあり、2]日露関係は信頼醸成がなされ、改善に向かっており、3]NATOの拡大は、ロシアの不安定化と中ロ関係の変化という不安定要素をもたらすが、当面は、日露関係の改善に寄与したという意味を持っている、との見解を示した。
ユスフ・ワナンディ氏(インドネシアCSIS会長)は、「ヨーロッパ拡大と東アジアヘの意味合い」と題して、1]グローバリゼーションのもたらす危機に対処するために欧州とアジアの緊密な協力が必要であり、2]このような危機に対処する上で、規範的・制度的・機構的に運用されるヨーロッパ型の地域レジームの確立が東アジアでも必要であり、3]OSCE(Organization for Security and Cooperation in Europe:全欧安保協力機構)などのヨーロッパでの地域協力のあり方から、アジアは多くのものを学ぶべきである、との見解を示した。
これらの報告を受けて、1]国際金融秩序(特に短期金融市場)に関してEUの拡大からどのようなインプリケーションを得るのか、2]NATOの拡大が、ロシアをどのような状況に追い込むのか、3]ロシアの地政学的な立場の変化がアジア太平地域にどのような影響をもたらすか、4]アジアの地域協力の可能性に関して、欧州の拡大からどのような教訓を得るのか、アジア地域協力の拡充に欧州の地域統合との共通項が存在するのか、といった点について議論がなされた。