連邦の優先課税権は州間の協力のための3番目の政治的理由である。もし、州が税法の統一性を欠くならば、連邦の課税優先権に直面することになるだろう。新しい税を導入したり、既存の税法を改定するニーズが存在する場合、調和のとれた(コーディネートされた)州の対応が納税者をして連邦の優先課税を認める逆の効果を及ぼす、政治的孤立を回避させることになる。
5 むすびにかえて
わが国において地方分権を推進するためには、国から地方への権限の委譲に対応して適正な税源の移譲を行い、地方公共団体が分権された権限を担えるような地方税制を確立することが求められる。しかし、地方分権によって期待される、地域間の自立的、自律的な行財政運営と、地域間の健全な競争によるわが国社会経済の活性化は、他方で競争に対する調整を必要とすることをアメリカの分権型租税システムは示唆している。
本来、地域の独自性、特色等を反映して多様であるべき(そして、実際に多様である)州・地方税制は、いま、その多様性から収斂、均質化への転換を模索している。経済のさらなる国際化や州際化に税制を適用させること、州間競争による税収のイロージョンを抑制すること、連邦政府の州・地方の課税権への侵害に対抗すること、経済活動に対する税制の中立性を確保すること等の局面において、多様な州・地方税制の調和、統一化は(程度の問題はあるものの)不可避となっている。
こうしたアメリカの分権型州・地方税制度における多様性の変容と、その背景にある問題を視座に入れながら、地方分権に即した地方税制の構築を検討していくべきであろう。社会経済のインフラとしての租税制度に、地域による著しい差異は馴染まないのかもしれないことを、アメリカの経験は示唆している。表4〜表6は、わが国における地方税源拡充の一つの方向として議論されている、住民税所得割のフラット・タックス化、法人事業税の外形標準化(所得型付加価値税化)に係る税収試算の結果である。いずれも、地方圏を中心に地方税収の拡充が図られ、税収偏在が是正される結果を示している。こうした方向を基本に、統一性をもった地方税システムを維持しながら、地方税源の拡充を実現する方途を検討していくべきであろう。