フリンジ・ベネフィット問題は州個人所得税の連邦所得税への準拠から生ずる問題であるが、連邦所得税への準拠は州税制にその他にもいくつかの問題を生じさせる。州個人所得税の課税ベースを連邦個人所得税のそれに統一させることには納税協力や税務行政の簡素化など多くの根拠があるが、他方、その結果、州の政策オプションは大幅に削減され、少なくとも短期的に州所得税が州のコントロールから外れてしまう。連邦所得税制改革のたびに、州サイドからの必要性に関係なく州税制が改正されることになる。その結果、税収の安定性や州税制に対する信頼性が低下する。
2)人口移動の増大
人口移動の増大によって州個人所得税は二つの局面で影響を受けている。まず、第一に州際を越える通勤者や居住州以外の複数の州で定期的に収入を得る納税者の増大である。1920年のシェーファー対カーター裁判(Shaffer vs. Carter)における連邦最高裁判決以降、大半の州では源泉地主義を採用している。(バージニアやメリーランドなど一部の州やワシントンD.C.では居住地主義による課税を行う相互協定を結んでいる。)したがって複数の州で所得を稼得している場合、それぞれの州での納税義務が生ずる。これは納税者本人にとっては複数の州に対して申告書を作成・提出せねばならないという意味で納税協力費が嵩むことになり、また、州税当局にとっても効率的、公平に申告が行われるように税務行政を運営せねばならない。
次に、人口移動の増大は前述のように、退職後に居住する州が退職前に生活していた州と異なる場合、現役時代にある州で課税を繰り延べられた所得が、退職後には別の州で課税を免除されるような場合、公正、効率的な課税について問題を発生させる。このためカリフォルニアなどの幾つかの州では、州内での役務の提供からの退職所得を州外で受け取っている者に対して課税を行っている。しかし、このように繰延所得の源泉州が州外に移ってしまった者にまで公正に課税することは難しいし、現役時代に複数の州で所得を得ていた者にとっては納税が煩雑となる。このため、(前述のように)連邦政府が州による非居住者の年金所得への課税を制限する規制措置を設けるような動きが出てきたりするのである。
当該州内で発生した所得について州外の居住者に課税を行う課税権は個々の州が有し、それに関しては問題が存在しない。問題は課税権そのものをめぐってではなく、複数の州の納税申告書を作成することの納税協力の複雑さと、効率、公平な税務行政の困難さであろう。全米州議会議員協議会と全米知事会(NCSL & NGA)は、納税者の地域間移動に対する所得課税の実施上の問題会の対応策として、以下のような州際協調を提唱している。
a)影響を受ける納税者の規模の限定
b)二重課税を回避するアロケーション統一ルールの作成
c)多くの納税者が申告可能な単一の統合申告書の導入
d)複数の州において単一の申告書での申告を可能にすること
3)フラット・タックス化の動きの影響
1986年のレーガン税制改革におけるフラット・タックス化の影響を受け、その後の2年間に16州が所得税の限界税率の引き下げている。(マサチューセッツやペンシルバニア、イリノイ、インディアナ、ミシガンのようにすでにフラット・タックス型の個人所得税を課税している州もあった。)高所得階級への所得の集中が進んだこともあり、こうした税率のフラット化は税収の弾力性を低下させ、また、所得税全体の累進度も弱めることになった。