第1章 事前評価と事後評価の定義及び関連事項
1.1 適正な事前評価とは、目標を明確にし、目標の達成方法を幾通りも考え、採択しがいのありそうな各選択肢の費用と便益を予測かつ提示し、リスクと不確定要素を十分考慮したものである。適正な事後評価とは、上述の必要条件を伴う他に、より適正な評価方法を見つけたいという願望と意向を合わせ持ったものである。事前評価と事後評価を正しく実施すれば、政策決定者や経営者が下す決定も一層適正なものとなる。また、そうした決定の実施を疑問視したり正統化したりするきっかけを与える。さらに、限られた資源の合理的利用を考えるための一つの枠組みを与える。
事前評価と意思決定
1.2 本書で使用する事前評価という用語は、最終の政策や執行部の決定の基盤とすべき費用便益分析を意味する。こうした分析は非常に広範に渡り、たとえば主観的な環境負荷情報や、公表された政策との整合性あるいは予算上の制約といった面も含めることもある。また、リスクと不確定要素の検討も必ず含める必要がある。
1.3 非常に多くの情報を盛り込み、正式の枠組みとして提示することもできるが、それでは最終決定を「報告する」ことでしかない。分析を行えば、代替案を多くの面からどのように比較検討したかという点を示すことができる。だが、最終決定の責任者が重視しなければならない戦略上の問題や実際上の問題も出てくる。したがって、本書に記載する指針では、こうした制約を無視して「正しい答」を示すことなどまずできない。だが、適正な意思決定を行うには、事前評価は欠かせない政策インプットとなる。
1.4 本書全体を通して、分析アプローチを適用できる分野に該当する政府内の事前評価を、国益に対する代替措置の諸効果を比較することであると考えている。「経済的評価」という簡略語を採用し、こうした広い意味の事前評価を、キャッシュフローや特定の影響といった1つまたは2つの要素のみを扱うもっと狭い意味の評価から峻別する場合もある1。
事前評価と事後評価
1.5 事前評価とはまさに事前分析であり、この意味から潜在的広範な選択肢の比較とみなすことができ、こうした選択肢はすべて仮説上の比較である。事後評価とは事後分析であり、狭い範囲の選択肢を比較検討し、そのうちの一つを具現化する。しかし、管理過程の一環となる評価計画は事前評価時に検討すべきである。本書で述べる指針のほとんどは、事前評価と事後評価の両方に等しく適用される2。
1 「経済的評価」という用語自体を狭い意味で使用し、たとえば従来測定されてきたGDPに対する影響のみの評価や、金銭的に評価できる費用便益のみの評価を表わすこともある。しかし、本書では、こうした狭い意味を採用していない。
2 中央政府では依然、プロジェクト、プログラム、政策の事後分析を表わすものとして評価という用語を使用している。中央政府以外でも、評価という用語がこうした意味で使用されることが多いが、事前分析を表わすものとしても広く通用している。