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この制度は、'90年代になって、バブル経済の荒れ狂う中で、緩和を前提として、行き過ぎた緩和に一定の歯止めをかけるというタイプのバリエーションの多発を生むが、このケースを含めて'95年現在1,633地区、約1.8万km2(用途地域指定面積の約2%)に適用されている。

一方、基本計画の方はどうであろうか。'82年3月にまとめられた「市町村計画の体系と参加一市町村計画の策定方法に関する研究報告書」には、'80年を前後して策定された十ばかりの都市の、基本計画の中に載せられた「地区別計画」(実際には「地区計画」・「地区別計画」「まち住区計画」などの言葉で呼ばれているが、都市計画制度の「地区計画」と区別する意味で、前記名称に統一。また例示として挙げられたものには計画と言うよりも現状認識図に近いものも多い)の必要性に、以下の理由のもとに言及している。1]生活環境整備・街づくりを重視する。2]市町村計画の策定課程で、地区単位の住民集会などを開催することにより、住民参加の拡大を図る。3]市町村計画の改定に際して、地区別計画を策定し、将来の全市にわたるコミュニティ地区形成の先導的役割を担わせる、以上である。さらに「比較的規模の小さな地区を単位とする地区計画と地区別計画は、単位が大きく異なること」、「地区別計画において、…街づくりイメージが…表現されれば、地区計画の方向を決めるに際して有意義なものとなる」と、地区計画と地区別計画とを区別している。ここでいう「地区別計画」は、後記する市町村マスタープランの「地域別構想」と酷似したものといえよう。

市町村マスタープランの登場と立案状況

市町村マスタープラン(法では「市町村の都市計画に関する基本的な方針」という)の特徴は、全体構想と地域別構想(小学校区あるいは複数の小学校区単位の)を、さまざまな住民参加手法を駆使して策定することにある。その法体系全体の中での位置づけとしては、都市計画法に基づく「整開保の方針」、地方自治法に基づく「基本構想」、国土利用計画法('74制定)に基づく「市町村土地利用計画」のそれぞれに「即す」ことを要件とされている。

このことは法文(第18条の2)には簡単に記されているが、翌年に出された通達の中身は盛り沢山である。通達は1]全般にわたるもの、2]全体構想について、3]地域別構想について、4]住民の意向反映について、5]その他の5項目により構成されているが、全般とその他についてのみ何カ所か拾い書きしてみよう。『住民の合意形成を図りつつ…地域特性を踏まえ、創意工夫に富んだ特色あるもの』、『個別事項の羅列にとどまらず、その相互関係にも留意し』、『生活像などを想定しつつ』、『都市像等の実現のための都市計画上の方針等を極力具体的に示す』、「プログラムを伴う」(以上全般)、その他の事項としては、『例えば美しい町並みの形成、環境負荷の小さな都市形態、まちづくりにおける高齢者・身障者への配慮、都心周辺部における居住空間の形成等』についても積極的に取り組むなど、従来の都市計画の内容をかなり超えた指示がなされている。

'98年1月の建設省の調査によれば、全国2,025の都市計画区域を持つ市区町村のうち、策定済みの市区町村が286(14.1%)、策定中のものが854(41.7%)であるという。県マニュアルを示して策定を強く要求した県を別とすれば、どちらかといえば一定規模以上の都市に策定済あるいは策定中のものが多いように見受けられる。中小市町村ではマスタープランの立案よりも地域振興の問題の方がはるかに深刻であり、通達で示された内容をそれなりに消化できるのは、マスタープラン的なもの(都市整備方針や街づくり方針や多くの部門別計画)の蓄積のすでにある、主として大都市とその周辺に限定されているように見える。

市町村マスタープランの提起した問題

市町村マスタープランについては、'96年5月に日本都市計画学会市町村マスタープラン研究小委員会が、既成のマスタープラン的なもののまとめも含めて「市町村の都市計画マスタープランの現状と課題」をまとめた。また、'99年11月号の「地域開発一特集・都市計画マスタープランヘの取り組みと実際」では、策定済みのマスタープランについて、コンサルタント・自治体プランナー・参加住民が、現時点での所見を記している。マスタープランという新しい計画を前にして困惑しているコンサルタント、やや控えめな記述に留っている自治体プランナー、本格的な住民参加を経験して意気盛んな市民の姿が浮かび上がってくるが、上記特集を含めて、市町村マスタープランが提起した諸問題を順不同に記すことで、本稿を終えることにする。

 

 

 

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