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1]多くの市町村が時間をかけて努力したのは、さまざまな形の住民参加の呼びかけであるが、参加者が少ないこと、殊に若者・女性・会社員の参加が少ないことが問題視された。しかし中には、杉並・府中・調布・狛江・鎌倉等「市民版マスタープラン」とも呼ばれるものも生まれ、行政プランに大きく反映されたものもある。東京大都市地域中心の話である。

2]住民参加に比べると、市街地像(全体構想・地域別構想)の表現内容と形式の議論はあまりされていない。「手段」である用地地域をベースに「目標」である市街地像にすり替えている都市も多く、今後の課題として残されている。

3]総合計画(概ね10年を対象)と市町村マスタープラン(概ね20年)の役割分担も、関係者の頭を悩ませる問題であった。都市の中には、策定の時期を合わせることで内部調整に成果を上げた例も見られた。

4]通達に示された「都市計画上の方途等の具体的明示」や「プログラムの提示」にまで到達している例は稀である。概ね20年という期間を盾に、考えられるものの殆どをプランにするといった都市も多い。低成長あるいはマイナス成長の状況下では、何を優先するのかが問われている筈である。

5]比較的規模の小さな都市で、白地地域を大きく抱え込み、乱開発の防止が自治体・住民の共通の関心事となったところでは、独自の「まちづくり条例」をつくり、これによる基準で建設行為を規制する例も表われ、今後の方向として注目される。神奈川県・真鶴町、長野県・穂高町等である。

6]市町村マスタープランの対象となるのは、都市計画区域をもつ2千強の市町村であり、残る千強(全市町村の約1/3)の町村は、対象外である。また町村域の一部のみを都市計画区域とする例も多く、これらの都市では、市街地の問題よりも農業問題=地域振興の方策づくりに関心が高く、そのための方策を探すことが優先される。

 

いずれにしても、市町村マスタープランの制度化は、首長・議員・行政プランナー・コンサルタント・住民に、いままで経験しなかった思考と能力を要求する。行政プランナーが住民とマスタープランを合作し、首長が決める。コンサルタントはコーディネーターとして機能するという図式にもとづく役割を担う能力である。そして出来上がったプランは、その運用に向けて、今後どれだけの真摯な議論が展開されるかに懸かっているものと言えよう。そういった意味で、プランの完了は新しい模索の始まりというべきであろう。

 

○プロフィール

森村道美(もりむらみちよし)

昭和10年6月25日生 

昭和34年3月 東京大学工学部建築学科卒業

昭和39年4月 東京大学工学部助手

昭和46年6月 東京大学工学部助教授

昭和62年6月 東京大学工学部教授

平成8年4月 長岡技術科学大学工学部教授

主な著書

「マスタープランと地区環境整備」、学芸出版社、1998年

「都市」、東京大学出版会、1987年

「都市計画教科書」、彰国社、1987年

「コミュニティの計画技法」、彰国社、1978年

現在の社会的係り

(財)日本生態系協会理事

新宿区 住宅・まちづくり審議会(会長)

中野区 住宅政策審議会(会長)

 

 

 

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