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ふたつの計画―総合計画と市町村マスタープラン

森村道美(長岡技術科学大学教授)

 

はじめに

4年前の阪神・淡路大震災は、木造低層過密住宅地の被災と復興過程において、また区分所有されたマンションの復興過程の計画立案において、従来の地域の付き合い・コミュニティ交流の蓄積が大きな力を発揮したことは、記憶に新しい。また、高度成長期の激しい人口移動や高齢化・余暇時間の増加を背景として、国民生活審議会が「コミュニティー生活の場における人間性の回復」('69)を発表して、これを契機に、自治省行政局行政課が「モデル・コミュニティ事業」を発足('71)させてから、やがて30年になる。

これを機に、コミュニティの問題をもう一度考えてみることが編集者の意図と伺っている。筆者は、都市計画者として、当時すでに新産業都市計画(広域都市計画)を経験し、県が計画主体である同計画に対して、市町村が計画主体である市町村スケールの計画の必要性を強く意識し、さらに市町村スケールの計画に描かれた内容がすべて現実したとしても、われわれの身近な生活環境の整備が保証されるだろうかという思いから、地区計画(地区環境整備)の検討の必要性を痛感していた。モデル・コミュニティ事業は、この方向の勉強をする好機と考え研究会に参加させて頂いた。本小論では、タイトルで示したふたつの計画の経緯を、その絡みも含めて、コミュニティ・スケールの計画を意識しつつ、辿ってみたい。

モデル・コミュニティ事業の概要と経緯

モデル・コミュニティ事業とは、市町村が選定して都道府県が推薦した、ある程度のコミュニティ活動の積み重ねである、あるいは高度成長期のスプロールの結果、新・旧両住民が混住している地域の中から、1]市町村のコミュニティ地区に関する全体構想を念頭に置きつつ、例えば小学校の通学区域程度の広がりを持つ、2]地区の住民がコミュニティづくりに関心を有していることを条件に、'71年度には、1都道府県1地区を目安に全国で40地区、続く'72・'73年度には13・30地区、計83地区が指定された。

モデル・コミュニティの目的は、『コミュニティ活動を促進する』ことと『そのための場を提供する』ことであり、事業対象としては、1]交通関連施設(6種)、2]環境保全施設(5)、3]文化施設(5)、4]保健施設(2)、5]社会福祉施設(3)、6]スポーツ・レクリエーション施設(6)、7]その他(1)の、計28種が挙げられている。しかし'77年春現在の集計によると、整備されたものは、コミュニティセンター・公民館(81)、2,500m2以下の公園・遊び場(47)、交通安全施設(28)、保育所・幼稚園(27)、防火施設(19)、体育館(17)…(以下略)と、触接住民の集合の場であるコミュニティ・センター、公園・グランド、それらへのアクセス道路が集中的に選ばれている。

自治省行政局は、事業推進に当たって、行政学・社会学・都市計画学専攻の7名より構成される「コミュニティ研究委員会」(日笠端座長)を組織した。コミュニティ事業は、やがて物的施設への支援から、コミュニティ活動への支援へと変化していったが、当時の研究会の議論として、次の事項が記憶されている。

1] 官製コミュニティではなく、既存の住民組織群を育成しつつ、プランの作成から運営に至るまで、負担のかからない範囲で住民の主体的参加を図ること。

2] 各地区が必要とする地区環境整備の内容と比べると、「コミュニティ施設」(主として集会スペースや運動場)の「新設」に偏りすぎている。これらの施設が地区で最優先されるべきものであったろうか。事業内容の例示の枠内での発想という面はなかっただろうか。

 

 

 

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