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三鷹市役所グループの提案

朝日新聞が東京発刊100周年記念事業として募集した懸賞論文、東京改革論に応募した三鷹市の職員グループの提案『浮上都市ラピュタの転都論』は、大胆な発想で最優秀作品となったが、その中心的な思想は分権であり、自治システムの再構築である。その中核的な提案は住民自治体としてのパリッシュの設置にある。パリッシュとはヨーロッパの教区を意味するが、ここでは学校区と読替えても良い。

パリッシュはここでは人口5千人ないし2万人程度の規模が想定され、財産区{地方自治法第294条}を活用し、法的根拠とする。これに議会と執行機関を設け、次のような事業を担当させようというのだ。

(1) パリッシュ所有の施設・用地(財産区)の管理及び貸し出し等の事務

(2) 1]遊歩道、コミュニティ道路等の施設整備及び管理 2]街路照明灯の道路施設の設置及び管理 3]地域の小集会施設の管理 4]小規模公園の管理 5]放置自転車の撤去・再生 6]共用自転車の管理(放置自転車の再生車。共通の鍵を一定期間有料で貸し出しパリッシュ専用駐輪場から自由に乗れるようにする) 7]パリッシュ専用駐輪場の管理 8]学校開放の自主運営 9]地域福祉事業の実施 10]高度情報システムを活用した無人住民窓口の開設・運営(高速ファックス、双方向TVによる証明書の発行) 11]地域の余暇施設の設置及び管理 12]文化・スポーツ教室の開催 13]地域図書館(室)の運営 14]地域のごみ収集・分別・再生事業 15]その他

(3) 地域意見の集約及び地域計画の策定

上の例のような、住民生活に密着した事務事業は、この他にもいろいろ考えられよう。これらを、現在の基礎自治体である市町村から移し、コミュニティ・レベルで住民自身の手で取り組む事によって、停滞しているコミュニティ活動の活性化と、自治意識の向上も期待できるのではないかというのが、三鷹市職員グループの提案である。

もちろん現在の住民・住民集団の能力から見て、この種の組織をただちに適切に運営することを期待するわけには行かないであろう。その住民集団を支える事務機構をどのように編成するかも、大きな問題である。この基礎自治体から一部の事務事業を移管されたコミュニティ・レベルの自治組織という形で、小地域の自治、住民が直接触れる自治を充実させる一方で、現在の市町村をより広域的な新しい社会的ニーズに対応した地区単位の基礎自治体に再編成することなどが、考えられる。

さしあたっては夢物語であるが、親交的コミュニティから歩抜け出した自治的コミュニティの将来像として、あるいは日本の自治の将来像として、頭の一角におかれて良い提案である。

 

プロフィール

倉沢進(くらさわすすむ)

昭和9年3月12日生 

昭和31年3月 東京大学文学部社会学科卒業

昭和41年11月 東京学芸大学教育学部助教授

昭和55年4月 東京都立大学人文学部教授

昭和62年4月 東京都立大学都市研究センター所長(兼務)

平成9年4月 放送大学教授

主な著書『都市化の社会学理論』ミネルヴァ書房1987年

『都市社会学のフロンティア―構造・空間・方法』

日本評論社1992年

『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992年

『大都市高齢者と盛り場―地域通りを作る人々』

日本評論社1994年

『コミュニティ論』 放送大学教育振興会1998年

建設省 都市計画中央審議会専門委員

うるおいのあるまちづくり懇談会委員

自治省 コミュニティ研究会委員

21世紀の地方自治懇談会委員

経済企画庁 国民生活審議会専門委員『コミュニティ』答申

国土庁 首都整備審議会専門委員

文部省 学位授与機構専門委員

東京都 マイタウン構想懇談会委員 福祉のまちづくり懇談会委員

世田谷区 環境審議会会長など

 

 

 

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