5 照葉樹で土砂崩壊の防止
―愛媛県内子町―
技術といえばハイテクや工業的なイメージが強いが、愛媛県内子町では土砂崩壊を起こした急斜面をコンクリートだけでなく、照葉樹を十分に活用して覆い、土砂崩れを防止しようという試みが始まっている。
内子町は町の中心部の八日市護国地区、約600メートルの街区の町並み保存で成功した町として有名である。そして現在では、町内の山間部の疲弊した農山村部、石畳地区において、村並び保存の事業を導入しこれらの日本の農村の進むべきひとつの道を、全国に向けて提示しようとしている。
住民による村の中心を流れる河川(麓川)の清掃美化運動から始まり、かつてその河川に多く存在していた水車を、住民自らが資金と労働を提供しつつ、その復活に取り組んでいる。そうした活動を通じて、石畳地区の農村として美しさを見直し、そこを誇りに感じるようにさえなった。町ではそうした住民の活動を支援するため、地区内の古い民家を移築して、住民運営による宿泊施設「石畳の家」を建設した。地区の婦人たちによって運営されているこの宿は、知る人ぞ知る隠れた人気の宿となり、今夏は予約を断る日も多々あったほどである。
こうしたまちづくりの事例をとおして、開花した住民の環境への関心を、町ではエコロジー・タウンとして計画化した。直接的な試みとして、照葉樹による土砂崩れ部分の緑化事業に取り組んでいる。コンクリートに代えて急斜面をカシやクス等、25種類の多様な照葉樹で覆う工法である。しかも、内子町の潜在植生種を育て、本来の森を再生する試みである。
傾斜度は60度、その斜面に細い鉄棒を打ち込み、斜面に平行に丸太材を渡し、土砂を小さく階段状に受ける。その土砂の部分に直根性の照葉樹の苗を30センチ間隔で植えつけていく。やがてはこの植根が地中深く伸びて、表面の土砂の流れをくい止めてくれる。乾燥と雑草を防ぐために10センチの厚さに藁を敷く。下から見上げると斜面は若い木々で覆われ、山の力を生き返らそうとしているようだ。しかもコンクリートで塗り固める工法よりは、約8割の工費で可能だという試算もまとまりつつある。10年後には立派な内子の森となって、多様な動物も住み着くに違いない。
町並み保存、村並み保存事業においても、もちろん重要な技術が多く開発され、使用された。そして今回の技術はそれに加え、50年後、100年後に楽しみな内子町の新しいまちづくりの技術であるといえる。
6 広域性とアイデンティティこれからのまちづくりの展開に関して、もうひとつ加えておかなければならないのは、広域性であろう。よく言われるように人々の生活は既に行政域を越えて広域化しているのは周知の事実である。しかしこのことは直ちにこうした人々の活動に合わせて市町村域を拡大しろという議論には結びつかない。現在の経済活動は、当然のことながら都道府県域ははるかに飛び越え、日本の国の範域もその眼中にないのが現実であろう。そうした活動、移動範域と自治体の範域とはおのずと趣旨が異なるものである。
しかしながら現在の地域経営においては、その範域を1]地方自治体経営のコスト面と、2]地域へのアイデンティティという2つの側面から考える必要がある。
まず、地方自治体経営のコストの側面であるが、現実には現在の市町村経営には莫大なコストがかかっている。日本の自治体のように、地域の全てのことがらに責任を持ち、これほど多くのことをなし遂げている自治体は世界的にも珍しいといっていい。施設整備も多様に展開されている。
しかし例えばこれら施設に関しても、今後は―自治体で全てを整備する、いわゆる“ワンセット主義”に固執してはおられないであろう。広域的に分担し合うことが不可欠なことだといえる。施設だけに限らず、イベントや観光への取り組み等も、広域で対応することが必要であるし、効率的でより多くの効果を挙げることが多いといえる。