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本来、ヨーロッパを中心に始まったグリーンツーリズムとか、ソフトツーリズム、アグリツーリズムと呼ばれるものは、短期に焦って収益を挙げるのではなく、小規模な農山村であっても、自らの行く末をきちんと見据え、地域の内側の資源と力を糾合し、かつそれらの事業を担う地元の人材を育てつつ、着実に一歩一歩進めていこうという発想のものなのである。

 

3. LaNaTour(ラナツアー)

LaNaTour(ラナツアー)を紹介しておこう。スイスは現在でこそ国民所得世界一を誇る国であるが、かつてはヨーロッパの最貧国と言っていいほど貧しい国であった。各国の軍隊に雇兵として若者を派遣し、その仕送りで食いつなぐという時代も、想像だにできないが、歴史を見るとそう記されている。

現在のスイスはもちろん豊かであるが、相対的に厳しい状況に置かれているのが、ヨーロッパアルプスを始めとする山岳地域を抱える、スイス南部のパリス州である。このパリス州を代表する山岳観光地は、マッターホルンを擁するツェルマットだといえる。世界中からの観光客がこの大観光地を訪れる。このツェルマットに隣接する古い都市がブリッグであり、かつてはこの町を通って、イタリアへ通じるシンプロン峠が主要な街道であった。

ツェルマットに大挙して押し寄せる観光客を傍目に、この古いブリッグの町が始めたのがラナツアーである。何をし始めたかというと、隣の田舎町リードと組んで、農業(Landvirtschaft)と自然(Nature)に基づいた観光(Tour)をテーマにしたまちづくりである。まず始めたのは地域に住む様々な能力を持った人達の発掘と連携であった。

エコロジーの専門家、工芸家、肉屋さん、レストランのシェフ、ホテルマン、チーズ職人等々、様々な地域のタレントを糾合することからラナツアーの試みは始まった。ツェルマットのように巨大化するのではなく、地域の個性に合う、しかも、その良さを求めて、スイス国内のみならず、広く国外からもお客を誘致しようという試みである。

有機栽培の飼料だけで育った牛の牛乳をチーズにする、伝統的な羊の料理を復活させる、ハーブや蜂蜜をブランド化する、新しいデザインの工芸品を創作する、田舎町リードの町並みを復元する、様々な試みが積み重ねられている。かつての主要道シンプロン峠もエコミュージアムとして復元されつつある。

 

4 地域づくりの“技術”が必要

このように、一例としてこのグリーンツーリズムを取ってみても、またスイスでのラナツアーの試みを考えてみても、これからのまちづくりには、地域で磨きをかける技術が必要であることがわかるであろう。

まちづくりは人づくりとか、ハードよりソフトが大切とよく掛け声がかかる。もちろん人づくりもソフトも重要なことに違いない。しかしこれまで成功をおさめている幾つかのまちづくりの事例を見てみると、何れも地域固有の技術を独自に編み出している。自ら編み出せないときには、きちんと外部のネットワークをうまく活用し、地域独自の技術化とでもいえるプロセスを辿っている。

古くは北海道池田町が十勝ワインを創ることに成功したのも、他からの支援はあったものの、中心は池田町の自治体職員達であり、彼らが独自に技術を習得したものといえる。熊本県小国町の地元材による公共施設の建設にしても、地域外の技術を導入して始めたものと言いつつも、地元に定着しはじめた独自の技術も多い。ましてやこれらの施設を活用して試みられている、最近の数多くのイベントは、もはや小国町の人々の技術なくしては実現、実施不可能といえる。技術はこのようにソフト化もする。

 

 

 

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