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利用上の制約が多い都市公園を、利用者である子どもたちに開放するために、大人たちが役所の責任を肩代わりしてプレイパークという新しい公園を作り出した例もある。時間を融通し合って高齢者の介護をする時間銀行。新興住宅地を舞台に、人々の出会いやふれ合いをもたらすさまざまなイベントなども、挙げていけばたくさんある。

 

3 公設民営施設は面白い

政治や組織の論理に振りまわされない施設づくりへの関心も高まっている。供給サイドである行政が一方的に用意した施設ではなく、利用者である住民ニーズのなかから、住民と共に行政が立ち上げた施設にその例が多い。

東京の町田市には、公設民営の障害者授産施設がたくさんある。市が施設をつくり、親の会などが委託を受けて経営を担っている。障害者を孤立させず、施設は地域に向けて開かれているべきだという考え方から、内容は多彩で同じものは一つもない。台湾りすを大きなネットのなかで放し飼いにして、有料で見学してもらう「りす園」。花壇の管理をするグリーンビジネスとともに、ダリアの花を栽培して開花時には有料で公開する「ダリア園」などは出色だ。町田市は行楽施設のない住宅だけのベッドタウンなので、「りす園」などは毎年10万人が来訪する観光施設として、一般市民に親しまれている。

町田市における障害者福祉部門の実績は、高齢者福祉分野にもすぐれた事例を結実させた。女医さんを中心にした地域の全日制市民である女性たちのボランティア活動を母体として、平成8年度に開設された「ケアセンター成瀬」がそれだ。行政が掲げる全市的ネットワークの一画をなす施設であるが、建設・運営にあたる社会福祉法人創和会の設立にあたって、住民組織には負担が過大な基金を行政が肩代わりし、建設費は今後の経営のなかから捻出し返済することで建ち上がった。

島根県島根町の3世代交流施設「花水樹」は、完成後に住民主体による自主運営への移行を意図して、建設段階から住民参加方式を導入した。子ども数の減少で余剰施設化する保育園の統廃合と、高齢化社会を迎えて不足が目立つ老齢人口用の施設新設という2つの行政課題を、複合した新施設を作ることによって解決し、なおかつ地域主導の運営体制の確立を計画段階から目指したのだ。大字単位の施設なので、居住総人口は600人ほどになる。その内、児童や超高齢者を除いたほとんどの住民がアンケートやワークショップ、先進地視察などを通じて施設づくりに関った。こうしたプロセスを経て、地域自治会の保育園への支援活動がとぎれることなく継承され、高齢者予備群や子育てを終えた親たちが集う地域のコミュニティ施設化に成功した

 

4 運動が地域を変える

住民主導の地域づくりで有名な大分県湯布院町のこれまでの歩みを整理してみると、個人色の強い自主的な住民活動グループが、問題の発生をいち早く察知し、ゲリラ的手法によって広く世論に問題提起したことがわかる。しきたりや既存の人間関係にとらわれない自由な個人の集団であるこれらの活動体は、地縁で強く結び合わされた農村社会では、珍しいし、異端視されがちである。そこを補う形で、九州や県内のマスコミ関係者、有識者、文化人などがいろいろな場面で支援者として登場してくる。つまり、湯布院という特定の限られた地域の出来事ではあるが、共感をもってそれを支援する人々の幅広いネットワークがあるのだ。これ以外にも、約30年間にわたるこの町の運動の展開から、他地域にも参考になりそうないくつかの論点を挙げることができる。

1]運動的展開のなかから、これまでになかった新しい問題が発掘され、その解決の手段もそこで見つけ出される。

2]新しい問題は従来の常識や規範を超えており、そこに横たわる横断的、複合的な状況は、縦割りに捉えがちな行政より、生活者である住民からのほうがよく見える。

 

 

 

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