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地域づくりはパートナーシップで

猪爪範子(地域総合研究所)

 

1 サラサラした関係を好む人々

首都圏に居住する住民の、定住志向が強まっている。横浜市が時系列で実施している市民意識調査では、「住み続ける」が7割以上で、「移転する」は年々減少している。しかし、住民の定住年数が増えるにつれて、住民相互の交流が深まるかというと、そうでもない。いくつかの調査結果から、「顔も知らない」、「道で会えばあいさつはする」というサラサラ関係でいきたいという層が圧倒的多数なのだ。

もっとも、阪神大震災が引き金になって、ご近所付き合い再評価の動きが各地で見られる。経済企画庁が実施した全国調査では、「自分が住む地域社会に期待する役割は何か」の問いに対して、「緊急事態が起きた時の対応」と答えている人が最も多い。その場合の地域とは、伝統的な地縁組織である自治会町内会を指すのだろうか。横浜市の加入世帯は90%を超えている。しかし、本来は自主的な住民主導の組織であるのに、役所の情報伝達、印刷物配布、委嘱委員の推薦、住民意識のとりまとめなど、下請け仕事しかしていないという批判もある。

東京都心に住む筆者の場合でいえば、集合住宅の管理会社が一括して町内会費を払っているから、個々の居住者としては加入者という自覚が持てない。集合住宅をまとめて一戸とみなしているのか、ご町内のお知らせなども各戸にはまわってこない。東京都が掲げるゴミの自区内原則処理政策に沿って、繁華街近くにゴミ処理場の建設を計画する区役所の住民説明会に出かけてみた。反対の意見を述べる人はたくさんいたが、その直後に何事もなかったかのように事業化が決定した。都市計画の用途見直しの説明会に行っても、状況は同じ。サラサラもいいが、それで気持ちよく住めるまちはできるのだろうか。

 

2 気になるテーマコミュニティ

自治会町内会の向こう側に、自由で幅広い住民活動が確認できる。余暇社会の到来を背景に、女性や退職者が生涯学習を楽しみ、企業や学校でもボランティアを奨励するなど、人びとの生活行動や関心が広まったせいだ。市民による自主的な活動は、従来の地縁組織と違って、活動のテーマやメンバー構成が自由で、当事者の自主性をより強く反映している。共有するテーマの上に人びとの結びつきが生じるので、「知縁コミュニティ」、あるいは「テーマコミュニティ」などと呼ばれている。

例えば、自分の家の納戸にたくさんの不用品衣料を抱え込んでしまった女性たちが、廃品回収業者とタイアップして、広範囲な繊維製品リサイクルネットワークを展開している。しかも、回収した衣料をリサイクルして得た収益金は、途上国の伝統的な織物産業の技術保存活動に提供し、国際協力にまで広がっている。

役所におかませの幼児保育を、親たちが街なかで自主的におこなう青空保育に切り替えて運動するグループも、子育てを共通のテーマとした人々のネットワークだ。

 

 

 

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