日本財団 図書館


また、農林業の低迷は、恒常的な農外収入を求める兼業農家や、離農する農家を一層増加させつつあり、夜だけを村で過ごすサラリーマン世帯の増加により、これまでの終日地域の中で暮らしていた農業型の住民の生活は、着実に変化してきています。そして、生活形態のずれにより、近隣との交流が減少し、個人の地域への帰属感を喪失させ、農山村の特色である地域の連帯感、共同意識が薄れてきました。地域の共同作業や祭りが以前に較べれば、難しくなってきたことも、こうしたことの表れだと思われます。

村では、今後ますます高齢化の進む中でのコミュニティの復活、復権のためには、そこに住む人々が主役となり、自らの手による村づくりが必要不可欠だと考え、平成3年3月に策定した第一次総合基本計画のなかで、「コミュニティネットワークで結ぶ心と福祉の村」を将来像に掲げ、21世紀へ向けたコミュニティ活動の推進に努めています。

コミュニティ活動推進のシナリオは、1]集落単位のコミュニティ計画推進のための現状把握と調査を行い、今後のコミュニティスタイルの在り方を検討する、2]官民一体の相互協力の基にコミュニティマップやコミュニティカルテを作成する、3]住民参加型の地域計画を策定する、4]コミュニティ活動支援のための行政の体政を確立し、機構づくりをおこなう、としています。以下コミュニティ活動の現況を紹介します。

 

誰でも参加できる農業づくり「鳴神の庄」

施設化に取り組む農家は、労働力や土地の条件、資金力などの問題により限られています。逆に近年の農業離れや第2種兼業農家への移行により、無作付けの遊休農地も増加してきました。現状の農業基盤の弱い農家対策と農地の保全と有効利用が村の課題となっています。その対策として、高齢者の生産活動を奨励する「七山村生きがいプロジェクト」の推進、農業改良センターや生活改善グループを中心に「見つめよう!広げよう!七山の味!」をスローガンに、郷土食の発掘・新しい野菜作り共同菜園・農産加工コンクール・家庭菜園コンクール等に力を入れてきました。その結果、個々の家庭菜園が充実し、余剰農産物を利用した各集落での無人販売所の取組みが小規模ながら始まりました。無人販売は国道沿いに点在していたために購入者の車が急停車して事故の原因になることもたびたびあり、また生産者からは「もっと定期的に出荷したい」「消費者と対話しながら売りたい」等の要望も多く、昭和61年には農産物直販所「鳴神の庄」がオープンしました。

「鳴神の庄」は、村内で作った商品しか販売していませんが、農地が標高50〜650mに点在し、さまざまな種類の野菜や果樹が採れる地域特性が活かさることで、バラエティーに富む商品を提供しています。また朝に収穫した野菜を出荷し、売れ残った商品は夕方に引き取るという厳しい品質管理や生産者の名前入り値札を付けることで、商品の信頼性を高めるなどの創意工夫によって、都市部の消費者への評判が広がっています。特に鳴神の庄の朝は、8時前の出荷で一日が始まり「おはよう。今朝は冷えるね」「今日は何持ってきたね」と村民同士のコミュニティの場となり、農家経済面でも、直売所の収益が生活費としての比重を占める世帯もあり、家族の協力や話合いも活発になっています。また、これまで無報酬で働いてきた主婦や高齢者にとって現金収入の手段となり、農業の将来に不安を感じていた婦人や高齢者も「やりがい」をさらには「生きがい」にまで感じるようになり、「やればできる」という自信となっています。

なお、「鳴神の庄」は、七山村の中央部の国道323号沿いにあり、年間16万人前後が利用し、2億3000万円程度の売上げがあり、都市住民にすっかり定着しています。

 

地元住民立ち上がる

環境保全を考える桑原区

桑原地区にある樫原溜池周辺は、湿原に生息する九州では珍しい動植物の宝庫で、県の自然環境保全地域に指定されたのを契機に広く知られるようになり、年々おとずれるひとが増加するとともに、また一方では、保全地域を荒らす者も増えてきました。そこで、桑原区では貴重な樫原湿原の自然環境の保全をPRするため、従来から行っていた溜池干しを昭和61年から「樫原まつり」として毎年実施しています。

この祭りは桑原区民のこどもからお年寄りまで老若男女が総出で取り組み、村内外からの参加者に湿原一帯の保全の大切さを訴えるとともに、鯉のつかみ捕り、地域の農林産物の販売、婦人会の手作りバザー等の催しものを実施し、地域の活性化の一助ともなっています。その結果、樫原湿原の除草、空き缶、ゴミ拾い等が自主的に地域住民によって行なわれ、さらに有機栽培米、有機野菜など環境にやさしい農業が地域全体で取り組まれるようになっています。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION