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4. おわりに

これまで地域の発展を計る指標は定住人口が増加することであり、工業出荷額や商業売上高などの経済指標でした。しかし、これから日本の人口が減少に向かい、国の活力が横這いあるいは低下するとき、これまでのような大きいこと、多いことがいいことだという考え方はもはや成り立ちません。むしろこれからは住民の生活の豊かさ、あるいは幸せの度合いを示す新しい指標でその地域の活力を計ることになり、地域づくりは日本中の市町村の競争になってくるでしょう。中央からの分け前を待つ姿勢ではなく、積極的に地方が主体となって、個性を持った魅力ある地域をつくっていかなければなりません。

そこでは安易な他の地域の模倣や全国律の横ならび的画主義ではなく、それぞれの地域が特色を出すことが期待されています。それが今声高に提唱されている地方分権なのです。限られた予算や資源でその目的を達成するためには、県境を超えた複数の市町村が共同で施設を設置・利用するような地域連携が必要であり、地域住民と行政とが密接に参加・連携を図っていくことが求められます。これからの地域づくりにおいては、地域住民および地方自治体職員の意識や態度の変化が鍵になってくるでしょう。特に行政側については省庁間あるいは部局間の縄張り意識を排除し、たてわり行政ではなく県境を超えた自治体同士および国、県との緊密な連携がなされなければなりません。さらに行政と民間との連携も促進されるべきだと思います。最近話題になっている民間活力の公共事業への参加(PFI)はその一例といえましょう。これまでのハードの競争から脱して、どのような智恵を出して利用者・生活者の立場に立ったソフト施策を実施するかという地域連携競争が今後は盛んになっていくでしょう。そのためにはそういう地域づくりを行う原動力となるひとづくり、すなわち人材育成が不可欠です。

実際には人材は豊富に存在しているはずです。ただ、そういう有能な人材を発掘して活躍してもらう仕組みが十分に出来上がっていないきらいがあります。みんなで智恵を出し合って、単なる過去の延長ではなく、新しい考え方に立って行動することが求められています。21世紀に向かってわが国が再び世界の員として国際間、世代間にわたる未来への持続可能な社会を形成していくためには、参加と連携による豊かで個性を持った魅力のある地域づくりがその成否の鍵を握っているといっても過言ではないと思います。

 

プロフィール

古池 弘隆(こいけひろたか)

宇都宮大学工学部教授

 

昭和15年(1940) 福岡県大牟田市生まれ

昭和39年(1964) 東京大学工学部卒業

昭和45年(1970) 米国ワシントン大学大学院博士課程終了(Ph.D.)

昭和46年(1971) カナダ・ブリティッシュ・コロンビア大学研究員

昭和51年(1981) カナダ・BC州立研究所主任研究員

昭和60年(1985) 宇都宮大学工学部教授

平成元年(1989) 栃木県都市計画審議会委員

平成6年(1994) 国土審議会専門委員

 

専門領域 都市および地域計画、交通計画、交通工学

著書 社会計画のための戦略的選択アプローチ(訳書)他

 

 

 

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