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折しも次期全国総合開発計画が策定されているところですが、その中でも本稿のはじめに述べたような内外の情勢の変化を踏まえた新しい考え方が必要になってきています。現在策定中の次期全総計画の中で、地域連携軸という言葉が次第に知られるようになってきました。国土軸が日本列島を縦断しているのに対して、地域連携軸はそれと交差する横断的なパターンをなしています。例えば、国土庁が平成5年から6年にかけて行った地域連携軸調査では、日本海側の地域と太平洋側の地域とを横断的に結びつける14のルートが検討されました。多くの場合、地域連携軸の基幹となっているのは高速交通体系、中でも高速道路です。しかし、このように日本列島を横断的に結ぶ道路で果たして十分な交通量が将来見込めるでしょうか。

これらの地域の人口は大都市に比べると少なく、交通需要もあまり多くを期待できません。また、従来のような産業界からの物流の需要も必ずしも多くは出てきません。これまで高速道路は地域開発の起爆剤になるという考え方がありました。しかしこれからは、ただ高速道路をつくればひとりでに開発が進むという楽観論は通用しません。これからの時代に対応する道路建設には新しい考え方が必要です。道路をはじめとする交通施設の整備が重要であることはいうまでもありませんが、それ以上に大事なのは、道路を必要とする交通需要をいかにして創り出すかということです。すなわち、道路というハードの整備と車の両輪のように重要なのは、その道路を利用して何をしょうかというソフトの展開です。それらは農業や林業の振興策かもしれませんし、リクリエーションや、観光、地場産業の集積かもしれません。さらにこれからは教育や医療福祉、文化や芸術、あるいは防災など、生活の質や安全性を高めるための道路の利用が期待されます。そして、それを積極的に推進するのが地域連携の考え方です。これからの道路はただ単に離れた地域を高速で結ぶだけでは十分ではありません。むしろ道路を核にしてこれまでとは異なった新しい地域づくりを行っていく必要がありましょう。

 

3. 参加について

これからの地域づくりに欠かせないもう一つのキーワードは、住民あるいは市民の参加(PI=パブリック・インボルプメント)ということです。これまでは行政主導型のトップダウン(上から下へ)の地域づくりが主流であったと思います。昔から行政は「由らしむべし知らしむべからず」というお上の姿勢で、地域によかれと思って様々な施策を行ってきました。これに対し住民側からは、ともすると行政に対する反対運動という形で対決するケースが増えてきているように思われます。これからは、ボトムアップ(下から上へ)の住民や民間活力の活用による参加型の計画が求められるようになるでしょう。

近頃では毎年8人に1人が海外旅行に出かけています。しかもその多くが女性や高齢者です。これらの人々が世界の各地を見てきた肥えた目で自分たちの周りを見回して積極的に発言し始めています。いまや市民・住民が積極的に自分たちの地域の将来の計画に参加すべき時代がきているのです。行政は情報公開やPR活動を盛んにして、住民との協力・連携を図るべきです。例えば、地域の自治会やNPO組織などがその活動の基盤になりうるのかもしれません。その場合に大切なことは、住民の権利の主張ばかりでなく、住み良いコミュニティづくりに向けた義務の遂行を促すことであり、また地域エゴや住民エゴを出さないようにしていくことです。そのためには、欧米諸国のように成熟した市民精神の育成が不可欠だと思います。そして様々な意見や対立する利害関係を調整してみんなが納得できる形で合意形成を図れるようなプロセスを創りあげていくことが重要になるでしょう。

 

 

 

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