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今後の地域づくりに向けた新しい考え方

―参加と連携の時代に

古池 弘隆(宇都宮大学教授)

 

1. わが国を取り巻く状況

20世紀も終わりにさしかかった現在、わが国はこれまでにない危機に直面しています。長引く経済不況や急激な高齢化、さらには地球規模での環境問題など、将来に対する不確実性が大きくわれわれの前に立ちはだかっているのです。政府原案の行財政改革の行方も不透明です。失業率も増大し、最近の経済はデフレの様相すら呈し始めています。戦後の荒廃した焦土から復興し、世界でも脅威的な経済成長を遂げ、一人当たりのGDPでは世界一の座をしめるに至ったかつての日本の元気さはどこに行ってしまったのでしょうか。最近の日本を見ますと、国の活力がこれまでの傾向から大きく様変わりしつつあるような気がします。他に例を見ないほどの急激な少子化・高齢化が進み、あと10年もすれば人口増加が頭打ちになり、その後は人口が減少し始めると予測されています。その結果、4人に1人は65歳以上という超高齢化社会に突入することになるでしょう。きたるべき超高齢化社会では、現在の年金システムは破綻をきたし、高齢者福祉政策の先行きに対する不安から、多少の減税をしてもほとんどが老後に備えた貯蓄に回ってしまい、これでは経済の衰退は避けられないのかもしれません。人口減少と経済活動の停滞による税収減と高齢化による年金をはじめとする社会保障の負担増からさらなる財政的危機が迫ってきています。これに加えて経済や産業をはじめとする多くの分野で、これまでの右上がりの成長パターンが終焉を迎えたのではないかと危惧されています。

国際的には、かつての欧米先進国に追いつき追い越そうとしていた時代から一転して、近年急激に経済成長が進みつつあるアジアを中心とする発展途上国からの激しい国際経済競争で追われる時代に変わってきたのです。アジアの通貨危機は一時的なもので、この膨大な人口の持つエネルギーはいずれ再び経済活動を活発化してくるだろうと思われます。またインターネットの爆発的普及に見られるように、国境を超えた地球規模での高度情報化が急速に進行しつつあります。このようなボーダーレスの国際化時代の新局面にわが国は十分に対応できるのでしょうか。

一方、温暖化をはじめ地球環境は悪化の一途を辿っており、21世紀に向けた持続可能な発展が危機にさらされています。現在約60億人の地球人口は、毎年途上国を中心とする1億人近い人口増加により、来世紀の半ばには100億人に達するとの予測もあるほどです。しかも途上国の経済成長による生活水準の向上は、一人当たりの食料需要量を増加させ、今後それらの人口を養うだけの食料供給が可能かどうかは、大いに疑問視されるところです。また、途上国で活発化する経済活動の結果、エネルギー消費量が増加し、化石燃料が枯渇し、二酸化炭素をはじめとする大気汚染は、温室効果による地球温暖化をもたらすおそれがあります。熱帯雨林の減少、酸性雨、砂漠化、オゾンホールなど、地球環境の悪化は人類の存続の可能性さえも危うくしています。

 

 

 

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