日本財団 図書館


大変喜んで「これを機にプロになりたい」と「ついては何か名前を付けて欲しい」という事で仲代さんに「何か名前を付けて下さいな。」「必要ない本名でいい。」「そんな事言わないで何か付けて下さいよ。」と「じゃあまあ参考に俺の演劇所は勤労青年を相手にしているから授業は夜、月謝はタダ。そうかといってこっちが手当てを出せる程ゆとりがない。お前何か昼間バイトしてるんだろ?何ってんだ?」「バイトではなくて本職があります。」「何だ?」「東京都庁千代田区役所土木課の正規の職員です。」「お役人さんだ。じゃあその勤め先を芸名にしなさい。」「どうしてですか?」「それが一番いいよ。」「じゃあ千代田っていうんですか?」「そうじゃなくって下がいいだろう。」「下だと役所になりますよ。」「役所でいいよ。」「上が役所で下はどうするんですか?」「下はコウジがいいだろう。」「何でコウジなんですか?」「お前土木課にいるんじゃないのか。」とこういう事であります。まあ役所広司いうのは私どもの後輩でありますけれども大変活躍が目立っております。私は彼のような輝かしい実績もありませんし、また仲代さんのような師匠も居りませんで、今日こうして御列席の皆さま方にあまりたいした話が出来ない、最初にお詫びしといたほうがいいだろうと。今日はろくな話ができませんのでドウモすいません。これが名前の由来ですからどうかあまりご期待のないようにお願いをいたします。

2つ目はメガネでありまして、先程までかけていたメガネ、これ取り替えちゃいました。こっちしまっちゃったんです。何でそういう事をしてんだと。私子供の時にいやな病気にかかりましてね、対人恐怖症。今まだ直っておりません。ですからこうして沢山の皆さまのつぶらな瞳が一斉に注がれますと、ここにいても、いてもたってもいられない思いをしてる訳であります。「うそつくな。それにしては随分よくベラベラしゃべってんじゃないか。」とよく言われるんですけれども、これはつまり皆さんのお顔がよく見えないメガネにかけかえちゃった訳でございます。今かけたメガネはもう時計の針以外は何も見えませんので、この大きな会議室を隅から隅まで見てる振りをしておりますけれども、どうか目線が合いましても気になさらずお気を安らかにお過ごし頂ければと思っております。

私は先程申し上げました落語の話が好きだというのはどういう事かと申し上げますと、これからお話申し上げる事は落語の所謂前座でございまして、本当の真打ちというのは森田先生がコーディネーターを努めて下さる圓藤知事様達の諸先生のパネルディスカッションが真打ちの方でございますから、私はなんとなくそのさわりのような事をお話し申し上げたら座布団をひっくり返してめくりをめくってこれで退場させて頂くと。これが使命でございますのでどうかお気軽にお聞き頂ければと思っております。

 

 

 

前ページ   目次へ   次ページ

 






日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION