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私がスウェーデンに留学したのは1990年から93年までの約3年間ですが、そのころは介護は家族の問題であるということが当然のように言われていました。先ほど千田先生がおっしゃったように、デンマークやスウェーデンのように福祉に力を入れると経済は活力を失ってだめになるから、学ぶものはないと散々言われたのですが、それでも寝たきり老人がいない国というのはどういう国なのだろうということで、どうしても行ってみたくて行ったわけです。スウェーデンで気づいたことが2点あります。

まず1点は、日本では昔は家族が介護をしていたということがよく言われます。ところが、スウェーデンの研究者たちは、それはもっともらしいが、実はうそじゃないかと言うのです。なぜなら、平均寿命が60歳代の社会では寝たきりや痴呆の問題は存在しないのです。日本でも終戦直後は平均寿命が60代半ばくらいでした。日本で痴呆の問題が社会で議論されるようになったのは、70年代に入って有吉佐和子さんの『慌惚の人』がベストセラーになってからです。年をとったら何かすごい怖い状態になるぞということがテレビや本に出てきて、日本人が身震いをしたことがあります。やはり寝たきりや痴呆の問題は、医療の発達や栄養が豊かになり、社会が豊かになったおかげで、人生70〜80年代になってきて起こってきた新たな問題です。したがって、昔は家族が見ていたというのは、1か月、長くて2〜3か月という看取りであって、痴呆や寝たきりの介護はそれとは全く違うわけです。今日、鳥取県の平均の介護年数の資料をいただきましたが、やはり5年、10年という長い期間になっています。家族の中に看護婦さんやホームヘルパーさんの資格を持つ人がいても、これだけの長い期間にわたり、つきっきりで親を介護することはなかなかできない状態になってきたということです。

2点目は、今日の本来のテーマにつながると思いますが、地方分権は高齢社会の要請です。いいとか悪いという議論ではなくて、高齢社会が地方分権を求めているわけです。

その1つに、地域による高齢化率の違いがあります。鳥取県で現在最も高齢化率が高いところは日南町で36.3%と伺いました。最も低いところは鳥取市で、恐らく16%前後で日本の平均とほぼ同じくらいだと思います。日本全国で見ると、現在日本で最も高齢化率の高い町は、瀬戸内海に浮かぶ山口県東和町で47.1%です。町を歩いていて向こうから来る2人に1人が65歳以上という町ですから、すごいなと思います。逆に、最も若い町は千葉県の浦安市で5.9%です。浦安といえば東京ディズニーランドがあるところですが、このように高齢化率がばらばらになってきたら、中央の厚生省が1つの指令をポンと出して対応するのはなかなか難しくなります。

2つに、地域による生活や文化の違いがあります。先ほど千田先生から雪の話がありましたが、雪かきの大事な地域もあれば、そうでない地域もあります。同居が多い地域もあれば、少ない地域もあります。また、ホワイトカラーというか、公務員やサービス産業が多い地域もあれば、農業が多い地域もあるわけです。

3つに、施設福祉から在宅福祉へということです。もし困ったお年寄りを施設に収容しようという施策であれば、厚生省が音頭を取って鳥取県に10個老人ホームをつくります、20個老人ホームをつくりますといって指示すればいいわけです。ところが、これからは在宅福祉の時代になります。そうすると、やはり市民に最も身近な自治体が大きな権限と責任を持ってサービスを準備し、整備する必要性が出てくるわけです。これが日本の中で私もひしひしと感じる高齢社会の要請です。私も世界のいろいろな国々を回ってみて、地方分権は高齢社会の要請だということに気づきました。こういった制度の詳しくは、次の機会にまたお話をしたいと思います。

河本 どうもありがとうございました。

次は千田先生には、先程、道上先生からありました国道と河川の地方移管に伴っての財源なり技術者移管ができるかどうか、その辺の見通しも含めて、今までの4人の方のご意見から、分権の必要性等専門委員としての立場でお願いします。

 

 

 

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