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おらの町の町長は、何を目的に町長になったかというのが大方の見方だと思います。しかし、ひざを交えて話しますと、「ああ、そうか。町長は50年後、100年後、おらの町をこういうふうにやってくれるのか。我々はもう死んでいるが、孫が喜ぶな」ということで、やはりリーダーというか、頭の思いを町民によく対話しておかなければ、ただ行政だけが突っ走ってしまうことになろうかと思いますので、私はそういう地道なというか、原点からそういう施策をやっています。

河本 続きまして、斉藤先生には、福祉の専門家として福祉行政における市町村の役割など海外の事例も含めてお願いをしたいと思います。

斉藤 ただいまご紹介をいただきました大阪外国語大学の斉藤弥生と申します。今日は福祉・介護の立場から地方分権を語るというお役をいただいていますが、地方分権推進委員会の議論と並行して、理屈よりも事業が急ピッチで先行しているのが、介護の分野の地方分権です。

まず、自己紹介を兼ねてということでしたので、少しだけ自己紹介をしたいと思います。

実は鳥取には以前一度伺ったことがありますが、それが”去年のおととい”です。私は、京都に住んでいますが、お盆休みに夫婦で日本海に沿ってドライブをしました。京都から城崎に出てずっと運転していたら、鳥取という標識が目に入り、鳥取砂丘まで来て、その晩、お盆休みで混んでいる中、駅前のビジネスホテルを探してようやく泊まりました。その日はたまたま花火大会で、鳥取市民の顔をして花火大会を楽しませていただきました。昨日もしゃんしゃん祭りで、本当にお祭りに呼んでいただいているみたいで、鳥取には非常に親しみを感じております。昨日のしゃんしゃん祭りを見ながら、このパワーを生かせるまちづくりこそが地方分権に求められているのだなということを痛感しました。

大阪外国語大学は、大阪の最も北の箕面市にあるユークな大学です。ここでは20数カ国語の言葉を勉強することができます。私はスウェーデン語専攻という部署で、スウェーデンの社会とスウェーデン語の教鞭をとうており主にスウェーデンと日本の介護政策の比較や地方自治制度の比較などを行っています。

今日は介護の話を中心に地方分権のお話をさせていただきます。大阪外国語大学では、4月の講義の時に50〜60人の新入生からアンケートをとります。受験を通り越えてきた学生ですから18歳から20歳くらいです。この歳の学生に、「あなたの親が倒れたら、あなたは介護をしますか」という質問を毎年必ずすることにしています。何%くらいの若者が親の介護のことを考えていると思われるでしょうか。千田先生、何%くらいだと思われますか。

千田 20%くらいじゃないですか。

斉藤 いろいろな勉強会でこの質問を必ずするのですが、大体千田先生のお答えが一番多いのです。20%、30%という答えです。ところが、これが全く逆なのです。8割の学生が親の面倒を見ると言います。私は悪趣味ですが、そのアンケート用紙の下のところにその理由を書いてもらうことにしています。そうすると、「ここまで大きくなったのは親のおかげである」「親を大切にしなければいけない」と、その親ごさんに封筒に入れて送ってあげたいようなうれしい答えが返ってくるのです。スウェーデン語学科ということで、もともと福祉に関心がある学生が多いということもあると思いますが、夏期・講座などで他の大学に講義に行ってこのような質問をすると、若者のモラルは低下していると最近よく言われる中でも、若者の6〜7割はやはり親の介護をすると言います。

ところが、ここで「あなたが70歳になったときに、90歳の親の介護ができますか」と意地悪質問をすると、「はた」と思ってしまうのです。自分が70歳のときのことなどもちろん想像できないわけです。そのとき元気で90歳のお母さんくらいならお風呂に入れられるかもしれないが、お父さんのおむつ交換はちょっとできないかもしれないとか、そのあたりを問い詰めていくと、千田先生がおっしゃるように20%くらいまで低下してしまうのです。

 

 

 

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