今までは自治事務が3割で、機関委任事務が7割でした。その7割のうちの4割(7×4=28%)が法定受託事務になりましたから、今までの3割(30%)と残りの6割(7×6=42%)で72%が自治事務になったわけです。これは大きいのです。市町村のほうは機関委任事務が4割ですから、同じように計算すると84%が自治事務になります。したがって、条例をつくらなければいけないのですが、これが大変です。今まで市町村で条例をつくる能力のある人は、総務課のだれさん、議会事務局のだれさん、企画室のだれさんと決まっていました。しかも、自治省が条例の準則をちゃんとつくって送ってくれますから、何々市と書くだけで簡単でした。我々議員は、準則と違うところがあるか、市独自で決めたところがあるかということばかり追及して、準則については質疑・応答したことがないのです。私が議員の時代もそうでした。ところが、70〜80%のことについて自分で条例をつくらなければいけませんから、法律のプロ、いわゆる法務学者に頼むだけではできません。そこで、みんながつくるわけです。
法律・条例といえば何かややこしいように思いますが、簡単に考えれば、いわゆる常識です。例えばゴミ処理の事務所の人などは、自分たちは条例などつくる能力はない、仕事をしていればいいと思っているかもしれませんが、「第1条、鳥取市民はすべて責任を持ってゴミをみずから処分しなければいけない」「第2条、市役所は何々しなければいけない」「第3条、市民は必ず分別をしなければいけない」「第4条、町の一定の場所に必ず出さなければいけない」というふうにすれば、ちゃんと立派な条例ができるのですから、総務課の人がつくるよりも、やはり現場にいる人がちゃんとつくる、そういう気風をつくり、すべての職員に法務能力をつけさせることがこれから何としても必要です。
2つは、政策をつくる能力、政策立案能力です。「おれたち村の役場の職員に政策をつくれなどとそんなばかなこと。おれたちは末端の事務屋だ。国が厚生省や文部省や農水省で政策をつくって通達や法律でよこす。それをして執行し、点検を受ける、間違いないようにやるのが我々末端事務屋の仕事だ」とみずから言っていましたから、政策をつくるなどということは考えたこともない。しかし、政策と言うから大変なのであって、アイデアと考えればいいのです。思いつきでもいいです。私は大学時代に「調査なくして発言権なし」という毛沢東の言葉を聞いたことがありますが、自治体の人は調査などしなくても、毎日仕事を見ているのですから、これはどうしたらいいか、もっといい方法はないか、もう少しやれば我々も住民も楽になるし、お金も幾らか安くできる、そういうアイデアは、その気になって頑張れば幾らでも転がっているのです。それを適当に文章化するのはだれかに頼んでもいいでしょうが、つくるのはやはり現場の人でなければいけないのです。
そこで、私はデンマークの話をします。デンマークに老人介護の3原則というのがあります。私は今から5〜6年前に聞きましたが、そのときは本当にショックでした。ショックというのは、意味がわからなかったのです。例えばある独り暮らしのおばあさんが、脳卒中で半身不随になり、寝たきりになる可能性がある。そういうとき我々行政は、当然特別養護老人ホームに入れるか、あるいは待ってもらうために家族に何としかしてもらうしかないのです。ところが、デンマークの3原則の第1は自己決定の原則です。つまり、施設に入るか、それともここにいるか、この2つに1つを半身不随になったおばあさん自身が決定することを政策として保障するという理論、原則です。しかし、そのとき私はわからなかったのです。自分はここにいると言っても、半身不随になったおばあさんを24時間面倒見れるわけがないのです。
今はわかります。朝ヘルパーさんが来て、自分でかぎを持って開けて、「おばあさん、起きましょう」と言って起こして、髪を結ってくれて、お化粧もしてくれて、車いすに乗せてくれる。次のヘルパーさんが来て、朝御飯をつくってくれる。