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ただ一人でここで暮らしていることだけわかる。老人が次の日、出かけて行くんで、そーっとついて行くと、荒れた地に穴を掘ってはどんぐりの種をきちんと植えて回っている。だれに何を言われたわけじゃないけど、それをずっと続けていく。大戦が始まっても老人はずっとやっている。で、訪ねていった彼が数年間忘れていて、20年か30年かたって大戦が終わってから、ふっと思い出してその地を訪れるんです。すると老人の姿はないんだけど、荒れた土地が広大な緑の地域になっていて、そこへ動物たちが住み、小鳥が住み、楽園のような町ができているんです。人が移り住んで。ああ、ここだったかと見間違えるほどにね。すばらしい町ができ上がっている。それだけの話なんですが、実に感動的でしてね。これを見た人は皆感激なさって、緑の大切さというものをしみじみわかるというか、涙が出るくらいいい映画です。何にもストーリーはないんです。いま言っただけの話なんですよ。それがアニメで絵に描いてありまして、たんたんとした、せりふがほとんどなくて、ナレーションが入るだけなんです。それを見ますと、何べん見ても、緑って大事だなということと、自然て大事にせないかんなということをしみじみ感じます。途中で皮肉るようなところもあるんですね。
ナチスドイツ、ヒットラーの兵隊たちが、戦争中にそこを通りかかるんです。隊長があの緑は何だ!と聞くと、回りの連中が、あれは自然の森です、と言うんです。老人がせっせと植えたことを知らないんですね。老人も何もそういうことを言わずに、黙って死んでいっただけで、誰も褒めたり表彰するとかしない。本当の無償の行為だったんですが、そのおかげで次の世代の人達はそこに新しい町を作って、鳥は飛んでくる、動物は育つ、人間も育つということですね。すばらしい天地ができたという、そういう話です。老人は何にもそれについてしゃべらずに、兵隊どもはあれは昔からあった自然の森だと気楽なことを言ってる。自然林だと言っているが自然林ではないんだと。そのためには老人が何十年もかかって、もくもくと一人で、無償の行為で緑を植えたんだという映画なんです。『木を植えた男』というので、環境問題ではよく上映されたりする映画なんだそうです。朝日の天声人語かなんかで、とりあげられていた気がするんですけど、大変すばらしい映画です。環境問題というのは、つまりは一人ひとりの心がけ。それを褒められようとか、どうこうしてもらおうというんじゃなくて、無償の行為がいかに大切か。それによって自然というのは、環境というのは、守られているんだ、ということを改めて教えられるような映画ですので、もし機会があれば是非ともご覧いただいたらなあと思います。

 

『森』の字

私、講演のテーマということもあって、いろいろと頭にあったんですが、ついこないだOBPのツインタワーのナショナルの大きなビルがありますよね。一番上の展望台にいきますと、皆さんお気づきになったでしょうか。上に行きますと、松下幸之助さんの1字が書いてあるんです。森って字が書いてあるんです。この森の字がね。森の下に木が3つ書いてあるんです。つまり、木、林、その下にまた木が3本あって、解説がありましてね。松下幸之助さんの解説で、木は林になり、林は森になり、森は山になり、山は山脈につながる、と書いてあるんです。

 

 

 

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