客席の中に卓があって自分でオペレートしていても、3列前に行くと違う音がしていますから、私は本番中にある程度バランスを取り直して安定したなと思ったら、客席の中に入って聞いてみます。そしてまた戻って、だいたい2回くらい修正します。リハーサル中はうろうろ動き回っています。
自己満足ではなく演じ手のイメージと客が期待するイメージの間に立っているわれわれがそこを間違えるとよくない音響になると思います。
(マイクロフォンセッティング)
マイクのセッテイングにしても、一緒に作りあうかという観点があるかないかで大きく違います。マイクというのはなんでもかんでも大きくしてくれると思っていたらそうじゃない、ということを分かってもらう。ものすごく大事なポイントです。そういうことをいろいろサジェスチョンをして、実は音響をやりやすくするというずるい考え方かもしれませんが。
音響スタッフでない方にぜひ分かってもらいたいのはマイクをセッティングするというのはただそこに置くだけでないってこと、音響の善し悪しを左右する重要なことを音響スタッフが担っているということです。
(ロック世代はアコースティックを知らない)
最近の音響屋さんの若い人はロックバンドの相手をすることが多いのか、アコースティックギターを案外知らない人が多い。フォークギターというのは音が出てこない。サウンドホールがあって、これも先ほどのピアノと一緒です。サウンドホールが一番でかい音がするからそこでいいだろうと思うと必ずしもそうじゃない。人によってはずらす、演奏の中身によって変わります。サウンドホールの内側に持ってきたいか外側に持ってきたいかによって、マイクの位置が変わります。わずかその差は3センチくらいです。
ところが多いのはアシスタントがマイクをステージに持っていって数秒間のうちにセッテイングをする。その数秒間でその3センチの間にうまくおさまるか、そのくらいアシスタントの仕事というのはシビアです。もしずれていたらどんなに優秀なミキサーでもお手上げです。ましてや暗転の中でセットするのは大変です。
音響のチームで大事なのはステージのアシスタントです。専門学校の若い人たちによく言います。ミキサー席に座りたいのは分かる。でも、すべての音があそこでつくられと思ったら大間違い。どんなふうにスピーカーを積んでどんなふうにマイクアレンジをするかで半分は決まってしまう。あとの成功率の30%はステージのアシスタントがいかにそれをセットするか。ミキサーができることはのこりの20%そのことを分かって、経験して初めてミキサー席に座れるんだ。と。
各ホールで何かの催しがあって自分たちで音響をやらなければいけなくなった時、音響スタッフは1人で、「大丈夫、マイク出すのは舞台スタッフがやるから」というパターンが多いことありませんか。もちろん信頼はするでしょうがチーフの立てたプランに基づいてマイクをセットするということがいかに重要なのかということを考えると、そんなもんじゃないと思います。
(子どもたちに生の文化を)
最後に、言いたいのは、私は特に地域の子どもたちに生の舞台の文化というのを届けてあげたいと思います。神戸の少年A事件はすごくショックでした。少年が年下の子どもをあんなに残忍な形で殺すことができるという文化状況を私たち日本の大人は作ってきたんだなあ。それは神戸だけじゃなく、今や地方の社会にも蔓延しています。もちろん舞台文化だけでそれが解消できるわけではないけれど、隣どうし「今日のあれおもしろかったね」と言い合える、隣どうし座った子どもたちの人間関係をどうやって作っていくか。子どもたちが回りの大人、親、兄弟と関係を閉ざして育っていくようにしてしまった文化状況に我々は責任を持たなければいけないと思います。
今、不景気で人間が殺伐として大変な社会ですけど、舞台にきたらお互い頑張ろうねといえる人間関係をつくって帰れる、そんな仕事を一緒にやっていければいいなと思っています。