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ですから、昔のこういった文化ホールというのは公会堂という名前が付いておりましたけれども公会堂というのはまさに舞台芸術のための施設というよりは集会、大会のための施設ということですのでどうしてもそういう時代のものというのは小さな舞台、大きな客席という形のものであったと思います。

その後よくこれも基本構想とかですね文化関係の人がよく言う使う言葉ですけれど物の豊かさからこころの豊かさへとこの言葉も耳にたこができるほど、みなさん聞かされているのではないかと思いますが、これは国民の調査をやっているやつですよね。たしか昭和54年ぐらいから物の豊かさよりもこころの豊かさを大事にする人が増えてきたということだと思います。それは世の中が豊かになってみんな物を持っているようになったから興味の対象が少しずつ変わってきたということかと思いますけれどもそういうこころの豊かさの時代にあわせて文化施設を充実していこうというのが行政の考え方だったかと思います。それで文化庁ができたのが昭和43年ぐらいですか、国の方も文部省がやっていた文化行政というのを舞台芸術に関連することについては文化庁がやっていくということで新しい専門の役所ができたということですね。

そういう中で文化会館というものが次々と作られていったわけですけれども、多目的ホールというのは最初の時代に作られた公共ホールですよね。これもまたいつもいつも悪口を言われっぱなしなんですけれども多目的ホールは無目的ホールだと言われますよね。でも目的なしに建物を造るのは難しいので実はそれなりにみんな目的を持って作っていたと思いますし、なぜ多目的ホールが悪いのかと聞いたときに聞く言葉が例えばですね、搬入がしづらいとか楽屋の数が足りないとかですねいうたぐいの話がかなり多いんですよね。でもちゃんと考えてみると別に多目的だから悪いんじゃないですよね。どの演目にとったってそれは同じに悪いわけでそもそも最初から良くない劇場を作っている、つまり舞台芸術のことを考えて作っているからこそ悪いのであってそれがすべての演目に対応しようと思って作っているから悪いのじゃない。もっと根本的に悪いのがあるじゃないかなと思っているんですね。

ですから、びわ湖ホールというこれも我々がやらせていただいたんですけど今、滋賀県に新しく造ったホールですね。もうすぐボローニアの歌劇場の公演が入りますが、ここは究極の多目的ホールだと思います。舞台の広さは日本一大きいです。新国立劇場が舞台が大きいと話題になっていますが、いわゆる4面舞台というやつですよね。主舞台があってそれと同じだけのスペースが両袖にあってかつ後ろ舞台があるよという4面舞台。床機構もスライディングステージとステージワゴンを使いまして主舞台10間各のエリアですけれどもそのセットが電動で転換できるんですね。びわ湖ホールはそれと全く同じだけのスペースを持っていてかつ音響反射板が走行式なんですね。走行式音響反射板というのをお持ちのホールの方もいらっしゃるかと思いますが、オーチャードホール以来ですよね。あの盛んに作られるようになったのは、従来のやつはピースに割って舞台の上に吊り上げていましたけれどもそうすると一個一個が軽く作らなければならないとか隙間が大きくなったりということで音響的に条件が悪い。それを解消するために走行式ということで加重を全部床で受けるフレームを組んでやっているわけですね。そうすることで構造的にもかなりがっちりした重たい物が使えるとか隙間が非常に少なくなることでかなり専用のコンサートホールに近い反射性能も持った音響反射板が作られるようになったわけですけれどもびわ湖ホールの場合はその走行式の音響反射板も持っているわけです。

当然、床面で支えてますからそれを収納するスペースがいることで後ろ舞台の更に後ろにそれが収納されているわけですね。ですから新国立劇場のTの字型の4面舞台プラス走行式反射板の収納のスペースが後ろにある。オープニングガラの時にやったのは紗幕をかなり使った舞台を作ったんです。というのは大道具をつくるのはお金がかかりますし、仕込みに時間がかかるんでオペラカーテンの前に白紗を吊ってホリゾントのところにプロジェクションが可能なホリゾント幕がありますよね。客席側からパニで舞台背景を作って行った。これは構想段階からびわ湖ホールの場合にはオペラハウスとしても日本でも最高レベルのものを作ろうと考えましたし、コンサートホールとしてもやはり一流のものにしたいという要望があったんで、じゃあ、それを実現するには両方の機能が果たせるような物を作りましょうということでやっていったわけですね。

 

 

 

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