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舞台幕については、消防法に定められた防炎性能の基準に用いる試験方法は、火災初期での小火源の着火源に対して物品が燃え広がるかどうかを試験するものであるが、放射加熱による着火を主として想定しているものではないため、消防法の燃焼試験に合格した舞台幕であっても、過度に大きい照射熱量が与えられ、蓄熱が起こり得る場合には、燃焼が継続する場合がある。

燃焼実験で使用した難燃繊維で作られた舞台幕については、防炎薬剤による加工のものに比べ熱分解温度が高く、照明器具による照射加熱による着火を起こしにくい特性を持っている。

上記この結論を踏まえ、舞台幕火災の予防対策としては、次にような対策が考えられる。

1] 防災性能の基準については、試験方法が主として小火源着火防止、延燃拡大抑制に着目したものであることから、強力な照射熱源によっては防炎加工された舞台幕であっても着火することがありうる。むしろ、防炎物品であっても特定の条件下では可燃物となるという認識を舞台関係者に周知を図り、照明器具との距離などを十分注意し、万が一の際の着火にも備えるなどソフト面の対応を図るべき問題である。ただし、難燃素材の舞台幕は防炎処理された舞台幕より着火しにくいということは特筆すべきことである。現在の舞台幕の使用実態等からは、難燃性素材の舞台幕の使用の強制はできないが、難燃素材の舞台幕の燃焼特性等について周知を図っていくことも重要である。

2] 照明器具の使用については、最高表面温度等に注意しつつ、表示されている最小照射距離・最小離隔距離を舞台設計・照明器具設置の段階から確保することは言うまでもない。また、舞台幕が束になっている場所等の、幕が重なることにより蓄熱がおこりやすい場所(舞台袖等)では特に注意が必要である。照明器具のうちでも特に高出力で集光性の高いもの、舞台設計上幕と接触しやすいもの及び可搬型のものや通常の位置から移動したもの、追加で持ち込まれたものについては、特に注意が必要であり、舞台幕が照明器具と近接するような動作を行う際には常に監視を怠らないことが重要である。また、衝撃による照明器具の舞台幕への接触を防ぐために、確実な固定、安全を設置位置の選択等が必要である。

特に昨今においては、舞台幕・照明器具の作動の自動化が進んでいる状況であるが、舞台幕の昇降・開閉、照明器具の点灯等の際に十分な注意・監視を行うことが重要である。

(C) 消防庁への報告

上記の調査研究の結果、平成10年5月「舞台幕火災に関する調査研究報告書」を完結し、日本防災協会より消防庁に答申した。

 

舞台幕の取扱について(消防予126号)

 

消防庁は、前述のように舞台幕火災調査研究委員会でまとめた『舞台幕火災に関する調査研究報告書』の答申を受けて、全国各都道府県消防主幹部長宛に同報告書を送付すると共に、消防庁予防課長より『舞台幕の取扱について』と題する通知が平成10年8月4日付で通知された。

以下、その内容の全文を紹介する。

 

『舞台幕の取扱について』

消防は第8条の3の規定に基づく防炎対象物品については、消防法施工令第4条3及び消防法施行規則第4条の3の規定により、どん帳その他舞台において使用する幕(以下「舞台幕」という。)を含め、防炎性能の基準等が定められている。

近年、舞台用機器、利用形態の多様化等により、特定の条件下においては、所定の防炎性能を有する舞台幕であっても着火及び燃焼の継続・拡大が起きた火災事例が発生したことから、こうした現象の解明のため、財団法人日本防炎協会において「舞台幕火災調査研究委員会」が設置され、検討が行われてきたところである。

今般、当該検討結果を踏まえ、舞台幕の取扱について、下記のとおりまとめたので、その運用について配慮されるとともに、貴都道府県内の市町村に対しても、この主旨を十分伝えられ、査察等の機会において舞台関係者に対して周知が図られるよう、よろしくお願いする。

 

 

1 防災加工された舞台幕について

防炎加工された舞台幕は、通常の使用状態においては特段の問題はないが、以下のような特定の条件下にあっては、着火及び燃焼の継縦・拡大のおそれがある。

(1) 高出力の照明器具が接触・近接すること等により、継続的に過度の加熱が行われる場合。

(2) 幕が重なったり束ねられている等、熱が蓄積しやすい状態にある場合。

2 舞台において使用される照明器具について

(1) 至近距離で舞台幕を照射する際に、高出力で集光性の高い舞台照明器具(ハロゲンランプを使用したスポットライト等)を使用した場合は、面積当たりの照射熱量が大きいため、定められた最小照射距離を守らない等、使用法を誤ると着火源となる可能性がある。また、光学的にホットスポット(光の焦点)がある照明器具は、特に注意を要する。

(2) 照明器具の光源表面が舞台幕に接触した場合、容易に着火するため、舞台幕の開閉時に接触する可能性が高い舞台袖に設置された照明器具や、舞台幕の直下付近に設置されたローホリゾントライト等の床置式照明器具については、十分な注意が必要である。

3 舞台幕を使用する場合における留意事項

1-(1)及び(2)に示す条件を現出させないため以下のことに留意すること。

(1)セッティング時における舞台幕と照明器具との最小照射距離及び離隔距離を十分に確保すること。特に可搬式の照明器具並びに追加又は移動して投置される照明器具については、舞台幕との距離、開閉の際の引っかかり等に十分注意すること。

(2) 照明器具が衝撃等によって向きが変わり、舞台幕を至近距離で照射することがないよう、器具の固定を確実に行うこと。

(3) 舞台幕の昇降、開閉動作時には、照明器具に接触しないよう常に監視を怠らないこと。

(4) 防炎加工された舞台幕であっても着火の可能性があることに留意し、万が一に備え、初期消化体制を確立すること。

4 その他

「舞台幕火災調査研究委員会」における実験の結果、素材が「貫八別珍」等の綿素材等であって当該素材に防炎処理を行う舞台幕よりも、原糸原料の合成反応の段階から難燃化された素材の舞台幕の方が、熱分解温度が高く、着火の可能性は低いことが明らかになったので、参考までにお伝えする。

 

 

 

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