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JATET NEWS

舞台幕火災に関する調査研努報告

JATET照明部会 渡邉良三

 

1. 舞台幕火災調査委員会設立の経緯

ここ数年の間、舞台照明器具と何らかの係わりのある舞台幕火災の発生事例が多くなりつつある。このことは、前例がない訳ではなく、平成5年以前にもその判例があり、これを重視して(社)全国公立文化施設協議会では、名古屋消防局消防研究室で行われた「パーライトによる舞台幕の燃焼試験」の結果報告として、平成5年9月発行の全国公文品通信第18号に発表され、さらに、(社)日本照明家協会においても同内容記事を同協会誌(平成5年No.282号)に掲載し、各方面への注意喚起が促されてきた。また、この実験報告は、消防庁発行の消防研究室年報平成6年No.23号で、名古屋消防局消防研究室から『スポットライトによる舞台幕及び大道具類の燃焼性実験について』と題してその実験結果が報告されている。

しかし、その後も舞台幕火災事故は後を絶たず、特に平成9年度前期においては、2月、3月、7月と立て続けに発生し、これを重視した消防庁は“舞台幕は防炎物品であり、消防とにおいて、その防炎性能が保証されているのに火災が生している。消防庁としても、舞台幕火災に対して重大な関心を寄せており、火災に到るメカニズムを解明し、その防止対策を検討したい。”として舞台幕火災に対する調査を(財)日本防炎協会に委嘱した。

日本防炎協会ではこれを受け、学識経験者、消防関係者、舞台施設関係者、及び防災協会役職者で構成した「舞台幕火災調査研究委員会」、消防庁、消防研究所、東京消防庁、横浜消防局の各技官、及び照明器具製造者、舞台幕製造者、防炎処理業者、事務局日本防炎協会で構成する「舞台幕火災調査委員会作業部会」を発足した。

2. (社)劇場演出空間技術協会(JATET)の協力

舞台幕火災状況を調査する上で必要な熱源となる舞台照明器具の特性や舞台運用上における演劇等催物の公演に対する舞台の使用環境、使用状態、さらに舞台幕と照明器具の安全な離隔距離等、舞台照明の実態を十分熟知した人に参加してもらうことが肝要との見解から、照明器具製造者の選定についてJATETに参加依頼の要請があった。

JATETではこれを受け、照明部会、技術委員会において検討し、これを受諾し参加協力することとなった。

以下は舞台幕火災に関する調査研究の概要についての報告である。

3. 舞台幕火災に関する調査研究報告

 

(A) 舞台幕火災に関する調査研究の概要

(1) 舞台幕火災調査研究の目的

舞台で使用する舞台幕の火災事故について、その原因、特に発火源となっている照明器具と舞台幕との関係において調査及び実験を行い、その予防について調査研究すること。

(2) 舞台幕火災調査研究の作業部会テーマ

I) 過去の舞台幕火災事例の調査。

II) 舞台幕及び照明器具の特性及び使用実態の調査。

III)照明器具による舞台幕の燃焼特性に係わる実験。

(3) 舞台幕火災調査研究の期間

平成9年7月から平成10年5月までとする。

(B) 舞台火災に関する調査研究報告書の概要

報告書の内容は、舞台幕火災事例の調査、市販されている舞台幕及び照明器具の実態、並びにホール運営における舞台使用の実態を知るためのアンケート調査と、照明器具の熱流束、発熱温度の実験、舞台幕の燃焼性能実験、更に照明器具による舞台幕の燃焼実態模擬実験による舞台幕の燃焼メカニズムの解明を軸とし、関係者に対する演劇公演等の舞台環境を認識してもらうため舞台設備の概要を付加して報告書としている。なお、経年変化による防炎性能については、作業会でも審議したが調査研究期間では結論は出し得ないとの見解から既発表の文献調査報告として記載することとした。

以上のように調査研究報告書は、その内容が豊富であるため紙面の都合により、ここでは報告書のまとめのみを全文記載し、他は内容を割愛し目次のみを紹介することとする。

 

§1 はじめに

§2 舞台幕火災の事例

§3 舞台幕及び舞台照明の概要

1 舞台幕

(1) 舞台幕の名称

(2) 舞台幕設備

(3) 舞台種類

(4) 舞台幕防炎処理方法

2 舞台照明

(1) 公演様式と舞台照明設備

(2) 舞台照明負荷設備の概要

(3) 舞台内の照明設備

(4) 舞台照明器具の名称

(5) 舞台照明器具の種類

(6) 舞台照明器具の表示

3 舞台幕と舞台照明の関係

§4 舞台幕、照明器具、舞台のアンケート調査

1 舞台幕の調査

2 舞台照明器具の調査

3 舞台の調査

4 アンケート調査まとめ

§5 照明器具と舞台幕の相互間係の実験

1 舞台幕試料

2 照明器具

(1) 照明灯の照射面中心の熱流束

(2) 照明灯の照射面近傍の温度分布

3 コーンカロリメータを用いた舞台幕試料の着火・燃焼性状

4 舞台幕試料の熱重量分析

5 舞台幕の着火限界距離照明器具

6 舞台幕と照明灯による燃焼実験照明器具

7 舞台幕と照明灯による実規模燃焼実験

8 実験結果のまとめ

§6 経年変化による防災性能についての文献調査

1 防炎加工カーテンの経年変化に関する研究

2 被災幕の防炎性能試験

3 市販防炎カーテンの耐候試験と防災性能

(1) 消防価格研究所報 32号

(2) 消防化学研究所報 33号

4 経年変化と防災性能のまとめ

§7 まとめ

本調査研究の結果により、防炎加工された舞台幕であっても、特殊な条件下にあっては燃焼が継続、拡大することがあることが判った。この現象については、高出力の照明器具が接触・近接することにより、舞台幕が継続的に過度に加熱されることと、幕が重なったり束ねられた状態にあることにより蓄熱が起こることの2つの条件が重要であると考えられる。

照明器具については、近年普及が進んできた高出力で集光性の高いハロゲンランプを用いた照明器具が、単位面積当たりの照射熱量が大きく、一定の照射距離以下では着火の可能性があるわが、その他の照明器具では、直接の接触がなければ着火の可能性は低い。

 

 

 

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