「舞台照明における機器の動向と改修計画および安全性の確保」
丸茂電機(株) 技術センター技師長 樋口 七生
1.最近の公共ホールのコンセプ卜
1)約10年以前、各地に建設された公共ホール、特に大ホールはいわゆる多目的ホールとして、式典から講演会、クラシックコンサート、演劇、バレエ、そして歌謡ショーやニューミュージックコンサートまでを催すホールであった。
また、併設される小ホールはピアノの発表会やアマチュア劇団等、市民参加型ホールとして建設されるケースが多かった。もちろんそうではない独自のコンセプトを持った公共ホールもあったが、数少ないケースであった。
これらの多目的ホールの照明設備は、演目が多様であることから、最大公約数的な設備にならざるを得ず、3ボー・5サス的発想を基本に、客席数や舞台の大きさに応じて拡大・縮小された定形的な設備がなされてきた。
2)現在の公共ホールは、従来の多目的ホール的な発想から専門ホール的な発想に移りつつあるように考えられる。
例えば下記のような目的ジャンルを持ったホールである。
●オペラのみを目的としたオペラハウス的ホール
●オペラ、バレエ、演劇を目的とした演劇ホール
●クラシック音楽を目的としたコンサートホール
●市民参加イベントを目的とした小ホール
●各種の展示、ファッションショー等の多目的・平土間のコンベンションホール
●小劇団用の実験劇場
等々
このように、目的やコンセプトがはっきりしたホールは、劇場の設備を考える上においても非常に容易となる。例えば上記のような演劇ホールでは天井反射板を設置する必要がないので、吊物設備の設計が非常に容易となり、安全性の面でも大いに改善されるなど、その効果は大きい。
これは、ホール新設の場合のみではなく改修時においても同じことが言える。そのホールの今までの使われ方、及び今後の使い方を充分に検討し、明確なコンセプトを持つことによって、設備面で従来よく言われてきた「何が来るのか判らないから、ないよりはあった方が良い」的な考え方から脱却して、必要な設備を入れていく方が特徴を持った使いやすいホールにすることができる。
例えば小ホールの調光卓を考える場合、この小ホールを前述のような市民参加型のイベント中心のものとして考えるならば、高度の時間軸機能を持ったディジタル卓はまず不要であるし、また手動3段プリセット卓は、専門家でないオペレータが使用する可能性があることから不向きである。
そうなると、基本的な明かりが記憶されていて、1本のフェーズ操作で明かりが出せる、パターンメモリー、シーンメモリー機能を有する操作卓が有利なのではないだろうか。
このように、ホールの主なる使われ方、コンセプトが明確にされ、それに適合した設備が選択されるようになってきている。