実際に後で本人に確かめた所、最初は舞台係など現場は力仕事が多く、目立つ所もなくいやでいやでしょうがなかったそうですが、今では受付業務の中にその知識を取り入れて、お客様に対応出来るようになり、有り難かったとのことでした。
例えば舞台係、照明係、音響係、ロビー係からの当日のホール備品の使用料を請求書に書くとき、現場が忙しく手が放せないときや離れられない時によく起きることですが、現場からの備品の使用や回数が違っていたとしても、「先に気がついてお客さまには迷惑をかけないですむ。」等だと答えてくれました。
よく受付業務又は表方業務だから裏方の方すなわち舞台関係はノータッチでいいんだと思って居られる方がいますが、それは良くありません。自主興行専門のホールは別ですが、一般的には、貸しホールの利用者はプロばかりが使用するものではないし、素人の方も多くが利用します。
受付時に自ホールの設備規模に合う催物かどうかの判断が出来るようになるし、出来るかどうかの目安もできるように成ります。
一例としてこんな事もありました。「オペラ座の怪人」というミュージカル出演の申し込みがあり、久しぶりの外国ミュージカルであったため喜んでいたが、受付事務、舞台係ともこの物語の売り物が客席天井のシャンデリアである事を、知らなかった。今までホール客席では危険であるという事で、吊らせないとしていた。「重さ約60kgのシャンデリアを客席内に吊るし、あるシーンで揺らすとのこと。」この内容を知らないで受け付けてしまった。──私は申込み書を見たときにすぐに客席に吊れるかどうか、吊れる場所はあるのか確認に行き、出来ると確信したので受付を受理した。―─現場担当間ではシャンデリアを吊るのは危険である。シャンデリアなしで公演してほしいとの要求がありましたが、私がやれると判断し、公演を行いました。公演企画の前であればキャンセルとかが出来るが、ツアー公演中とか、公演日がせまった時などは大問題となる。
シャンデリアなしで公演となると、台本から演出まで全部書き換え及び変更しないといけないからです。
ホール受付業務は、利用者が最初に来館される所であり、「こんな催物を行いたいが」と相談に来られた時に専門的な事は別として、ある程度の事は答えられるようにしてほしいと思います。専門的なこと、技術的なことになったときは舞台技術の方に応援を頼めばいいと思います。私の所では、本番中でも又、他の仕事中でも技術の人を呼んで説明してもらっている事が、よく見受けられました。
舞台技術関係者の中には、「舞台の事だから舞台の事には口を出さないでほしい。」と決めつけないで、お互いに勉強してほしいと思います。専門職外の方は舞台用語は慣れないと少し難しい所も有ると思いますが。
こんな例も有りました。式典のアトラクションで100名のコーラス発表会が予定されている打合せがあり、舞台技術が集まりコーラス台の組み方について検討している所に、当館の副館長が現場視察に来られたとき、挨拶は全員が舞台挨拶用語の「おはようございます。」で行った後、先程のコーラス台の組み方と脚について検討し、ここは「開き馬」がいい、ここは「差し馬」だと議論を交わしていたのです。副館長はその場に10分程居られ事務所に戻るなり、意気なり「おい、お前の所はおおっぴらに競馬をやらせているのか?止めさせろ。」と苦言である。私も最初はなんで怒られているのか理解できなかったが、これは先程の「馬の話」と思い出し、舞台用語が判っていない誤解の判り「開き足」「差し足」「箱馬」等の説明と舞台用語の説明をした。笑い話ではあるが、意味が判らないと、とんでもない誤解を生むものである。
受付業務の方が全部の舞台用語又は仕込み図の読み方、設備の内容を判ってほしいと言っているのではなく、少なくとも基本的な事で十分です。初めてホールを使用される方にホールの設備等を簡単に分かりやすく説明出来る程度でよいのです。又事務系、受付の方が用語または品名、備品の使用方法等を知っておくと、機器のトラブルや事故が遭った場合、説明がしやすく早く理解してもらえます。