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同様に効果音の送り出しが主な業務となるオペラの世界では1970年代の中頃からコンピュータを用いるパターン再生を試行し、10年程前からはフルディジタルミキサーの導入が始まっている。

製造者の立場からはICチップの普及に伴う各種部品のディジタル化により急速に良質なアナログ部品を入手することが困難になってきている。

 

2.3 ホールにおける運用環境

実際にホールの現場においては音声がデイジタル化されなければならない理由はないと言ってもよい。これは、マイクロホンからスピーカーまで直結されているため信号劣化がほとんどないからである。ただし、ホール空間の響きによって音が変化するが、それは信号をディジタル化しても大きく改善されるものではない。

一方、昔からホールの音響調整卓には機能や操作性の面からフレキシビリティーが求められている。簡単な拡声においても複雑な調整卓を使用しなければならない、逆に高度な音の演出をしようとしても機能が不足したりというホールの現場の要求に応えられない問題点がある。これをディジタル化によって解決できるかもしれないという期待が以前からよせられている。しかしながらパソコンに運用上の限界があるのと同様に、現在ではあまり過度の期待をしてはならないとも感じている。

ホールにおける演目は毎日替わり同じものは二度とないが、各種設定、たとえばマイクロホンに対する補正、録音時の設定、送り出し先など記憶再現の要求は多い。

他方、商業劇場では演目・演出形態、音響技術者の志向などからカスタムメイドが一般的となっている。

ホールの音響調整卓は、ホールの運営形態が現場即応のSR業界とじっくり仕込みロングラン派の商業劇場の双方の性格を持つことからディジタル化がやや難しいともいえる。にもかかわらず、先に述べた社会的な環境や機器製造上の理由、潜在的なニーズなどからディジタル化は時間の問題となってきた。

また、舞台照明業界では早くからディジタル化を進めてきたため、ほとんどの操作卓がシーンメモリ卓になっている。同じ舞台設備として音響設備をみると遅れていると見られても無理のないことである。

ところが、ディジタル音響調整卓を導入しようとする気運が高まってきたにもかかわらず、実際のホール運用に即して一般化された音響調整卓は未だなく、導入に至るホールはきわめて希である。

現在、もっとも求められている音響調整卓は機能からも価格からもホールに適した普及型ディジタル卓であることは明白といえよう。これは、概念的には使いやすい中型ホール円卓をディジタル化した形+αで同様の価格帯におさまれば広く受け入れられるものと考えられる。

 

2.4 施設としてのホール環境

ホールを建築施設として見てみよう。全国ホール協会の会員である会館のホールについて、客席数ごとのホール数をとりまとめて図-1に示す。客席数は0〜50席未満ごとに集計した。これは『全国ホール名鑑』平成8年版より引用した資料である。

図-1から明らかなようにもっとも多い客席数は500席であり表示ホール数の約10%を占める。次に多いのは1000席、つづいて800席、300席、400席、1200席、700席、600席、450席となる。100席から2300席までのホールの客席数は平均は900席となり、800席から1200席のホールで全体の76%、100席から1700席までのホールで全体の95%を占めるものとなる。2000席以上の大型ホールはここでは61で全体の4%、1200席を越えるホールの数は311で21%の割合となっている。

同図に示すホールの総数は1488であるが公文協に属さないホール、民間のホールなどを合わせると全国のホール数はさらに多くなる。しかしながら、客席数のパターンは同様と考えてもよいであろう。

 

 

 

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