AES東京コンベンション'97
ホール用音響調整卓のディジタル化についての考え方
Consideration on a Concept of the New Digital Audio Mixer for a Multi-purpose Hall
稲生 眞
Makoto Ino
NAGATA ACOUSTICS Inc.
Abstract
Much attention has been paid to the digital audio mixing console used in multi-purpose halls. This presentation gives the results of the field studies on several factors which seems to be influential to the design of a digital mixing console such as, general tendency from analogue to digital techniques, the spread of digital audio devices to sound systems, operating environments of multi-purpose halls peculiar to Japan and so on.
Design concepts of a digital console are discussed and new ideas are also presented.
1. はじめに
現在、多機能ホール、コンサートホールなどに設置される音響調整卓はアナログ信号処理回路を用いるものがほとんどである。ところが、録音再生機器、効果用周辺機器などは、ほぼ、ディジタル信号処理機器に交代してしまっている。
また、レコーディング、オペラやミュージカルの上演においてはディジタル制御あるいはディジタル信号処理による音響調整卓が数多く採用されている。
ホール用音響調整卓についても各方面からディジタル化の声が大きくなってきている。ホール用新ディジタル音響調整卓の概念を明らかにするために、これまでに周辺環境、使われ方、操作性、各種問題点などの検討を行ってきた。ここでは、それらの結果をとりまとめて報告する。
2. ホール用音響調整卓と周辺環境
2.1 社会的環境
CDが発売されてから15年余り、社会的にもディジタルオーディオが当然のものとして受け入れられるようになった。
ホールの現場における若い音響技術者のほとんどはCDを聴いて育ったと言ってもよく、ディジタル化に対する抵抗は全くないといってもよい。
このためホールのオーナーや管理者から調整卓もデイジタル化して当然との意見も聞かれるようになってきた。
2.2 プロオーディオ環境
プロオーディオの世界では早くからソフト制作、放送などメデイアの世界においてディジタル化の波が広がっていった。ところが生で行われるコンサートや演劇の世界においてはハプニングのおもしろさ、高い音楽性、現場の迅速な対応と操作性、感性によるオペレーションなどが要求されるため、今でも主要な機器はアナログ機材となっている。
ロングランを行うミュージカルなどでは毎日同じ操作の繰り返しとなるため、ディジタル制御のアナログ卓がよく使用されている。