そういったことで、ものを作っていくには、その時の施設だけの問題ではなく、作っていく過程の段階でいろいろな協力を得なければならないことが山ほどあるということをわかっていただきたいと思います。
○太田
北海道文化財団の太田です。
フランスのマルセイユのある劇場は、もと魚市場だったそうですが劇場計画が出た時に全部を壊してしまうのではなく、その魚市場を残したまま劇場を建てようという考え方でできた劇場です。
ですから、周りの枠は魚市場のままです。古いものは全部壊してしまうのではなく、それも取り入れて次の時代のものを造っていくという考え方はほかにもあります。オルセー美術館も駅をそのままにして造り、古いものは古いものとして、新しいものと融合して造っていくという考え方は、とても大事なことであり、舞台芸術でも大事なことかなと思っています。
オホーツクの斜里町の10月にオープンする劇場は元は小学校の校庭だったそうです。そこにミズナラの木が何本かあって、劇場を造るにはそれを切らなくてはならなくなりました。でも、それを切るのは嫌だという人たちがいて、切る、切らないで町民の大論争になったそうです。結局斜里町は町民の意見として残すことになり、建物全体はホール、工作室、その他といろいろありますが、その真中にミズナラの木を5、6本残して劇場を造りました。
劇場というのは設計ばかりが先に立ってしまって、外枠だとか、ロビーだとか、綺麗なシャンデリアを造ったり、豪華な椅子を使ったりして造るのですが、実際のところ皆さんのように運営や管理の人たち、人間という中身が中心になかったらその劇場は成り立っていかないわけです。それがいまの日本の公立文化施設、劇場ではちょっとなおざりにされてしまっているような気がします。
音響設備も、照明設備もかなりハイレベルなものが今はいります。でも、それは使っていく人間の技術力がなかなかそれについていけない、それを全部使いこなせない。
やはり、劇場は設備とかスポットの数とかではなく空間が如何に大切か。その空間を管理していく皆さん方が大切であり、スポットがそんなになくても、回路がそんなになくても、マイクがそんなになくても良い芝居はできます。
テレビの視聴率が25%の番組の場合には、1%が大体100万人と言いますから日本中で2,500万人の人たちが見ているらしいのです。テレビというのは何が面白いかというと、今のこの時間に大阪でも、東京でも、どこでも2,500万の人が見ており、時間を共有していることにあります。
舞台の面白さというのは、例え300人の観客であっても、時間の共有ではなく空間を共有していることにあります。今、この場所にいる何人かの人たちが同じ空気を吸って、同じ風を聞いて、音を聞いたりと空間を共有していることです。舞台は視覚が60%、聴覚が20%、その他臭覚など五感で芝居を見ているのです。
ですから、参加する側、創る側、使用する側、外からくる技術者と中にいる技術者などのギャップを如何に縮めていくかというのが我々劇場管理者の一番大事な仕事だと思います。
自治体ホールは、今、公共施設というのは一つの装置であって、今までは何をしては駄目だ、9時の前に入っては駄目だ、9時半に出なくては駄目だとかいろんな問題が出てきます。それは殆ど大きな都市だけの問題のような気がします。地方の施設の場合にはあまり問題はないようです。
これからは、技術の人と地域の文化団体の人たち、踊りをやる人たち、バレエをやる人たち、いろんな人たちとコミュニケーションをとって、劇場同志のネットワークというのも必要ですが、その地域の芸術活動をしている人たちのネットワーク、演劇をやっている人たちのネットワークなども必要です。
今、例えば恵庭で演劇をやっている方たちも新冠に行ったり、斜里にいったり、帯広に行ったり、あちこちに行って横のつながりを持っています。ホールのネットワーク、それから技術者のネットワーク、それとそこを使うアーチスト側のネットワーク、その他のいろんなネットワークが各地に出来たなら北海道全域の面白い舞台のネットワークになっていくというふうに感じます。